下北沢から祖師ヶ谷大蔵に移転した独立書店の「その後」とは...新しく生まれる“本屋の灯り”
2025年03月05日 公開
世の中にはたくさんの名言や迷言、奇跡のような出来事が存在します。でもそれだけではありません。誰かのきっかけになる言葉や行動は十人十色で存在していて、それは飾らない何気ない言葉や行動だったりもします。 些細なことから大きな出来事まで、さまざまな分野で活躍されている皆さんがどんなきっかけを得たのか、実際に伺ってきました。
第3回としてお話を伺ったのは、日本全国の独立書店に足を運んで取材し、『日本の小さな本屋さん』や『改訂新版 東京 わざわざ行きたい 街の本屋さん』を執筆されている和氣正幸さんです。和氣さんは祖師ヶ谷大蔵でシェア型書店「BOOKSHOP TRAVELLER(ブックショップトラベラー)」を運営しています。和氣さんの転機となった出来事は、2023年4月に書店を祖師ヶ谷大蔵へ移転したことでした。
トントン拍子で決まった下北沢から祖師ヶ谷大蔵への移転
もともとシェア型書店として下北沢にあった「BOOKSHOP TRAVELLER」は、スペースが手狭になったこともあり、2022年夏に移転を検討し始めます。
移転先は本の棚を借りてくれる人の属性が多かった小田急線沿線や京王線沿線で探していました。 たとえば成城学園だったり経堂、千歳烏山や下高井戸にも物件を探していたものの、なかなかいい物件が見つからないなか、プッシュ通知広告で偶然見つけた祖師ヶ谷大蔵の現在の物件にたどり着きました。
物件を管理している不動産会社の担当者の対応もよく、物件が見つかってからはトントン拍子で、探し始めて半年で書店の移転が決まりました。 和氣さん自身が立ち上げたシェア型書店を下北沢から祖師ヶ谷大蔵に移転させて良かった最大要因は、自由度だったと言います。祖師ヶ谷大蔵の店舗では思いついたことを実行に移すことが容易になったそうです。
初めての経験が相次ぐ
和氣さんが祖師ヶ谷大蔵の現在の場所に移転するにあたって初めての経験をしました。それが融資でした。和氣さんによると400万円ほどの融資を受けたそうです。移転前は全く融資など受けずに営業していたこともあった和氣さんでしたが、移転にあたって融資を実行したことで、これまでと違う気づかないところでのプレッシャーを感じ、日々アジャストするのが大変だったそうです。
さらにその後に追加融資を受けたり、移転2年目は『改訂新版 東京 わざわざ行きたい 街の本屋さん』を執筆することになり、その時間の捻出を含めなかなかアジャストすることに四苦八苦しながらも、ようやく最近落ち着いてきたそうです。 下北沢で「BOOKSHOP TRAVELLER」を始めたときは、自分が食べていければいいと思っていた気持ちも、祖師ヶ谷大蔵に移転するにあたっては融資を受けることを決断したものの、当時は目の前の売上を気にしすぎると良くない流れになるという気持ちがずっとあったと和氣さんは言います。
そのなかで心の余裕の持ち方が難しく、ちょうど独立書店にもメディアや世間から注目が集まってくる時期とも重なり、専門家として紹介するような仕事も忙しくなっていきました。加えてコロナ禍が加わったことも大きな影響がありました。
それでも祖師ヶ谷大蔵の地元の人とのつながりもでき、特に店舗の隣で同時期に出店されたハンバーガー店の「パシモンバーガークラブ」さんとは非常に良好な関係だそうで、店舗スタッフが1人「パシモンバーガークラブ」でも働くぐらいの距離感を作っています。また独立書店に詳しい専門家としてメディアに出ることが増えたことで、いろんな書店系のフェアだったり、祖師ヶ谷大蔵でやる出店イベントだったりにお声がけされることも増えたそうです。
いま書店業界を盛り上げるために
独立書店界隈の盛り上がりと街の本屋が減る問題は重なる部分はあるとはいえ別の問題だそうです。そんな中、新しく生まれつつある本屋の灯りをどうやって灯し続けられるのか。 キーワードは「連帯」だと和氣さんは言いますが、アイデアはいくつかあるものの具体的なプランにはまだ至っていないそうです。
「そう遠くないうちに行動できたらと思います」と和氣さん。
悩みながらも楽しそうな顔で話していました。 もしかすると、祖師ヶ谷大蔵から新たな本屋のスタンダードが見られるかもしれません。