1. PHPオンライン
  2. 生き方
  3. 「偏差値」と「学ぶ力」は無関係 慶応大教授が考える、生きた知識の身につけ方

生き方

「偏差値」と「学ぶ力」は無関係 慶応大教授が考える、生きた知識の身につけ方

今井むつみ(慶応義塾大学教授)

2025年03月29日 公開

「偏差値」と「学ぶ力」は無関係 慶応大教授が考える、生きた知識の身につけ方

認知科学、言語心理学などを専門とする慶応義塾大学教授の今井むつみさんは、「学び」のモチベーションを報酬にしてしまうと持続性が失われてしまうと話します。学び続けるための好奇心を育むには?詳しくお聞きしました。
構成・文:高松夕佳

※本稿は、月刊誌『PHP』2025年4月号より内容を抜粋したものです。

 

「学び」をつまらなくする要因

まず私がお伝えしたいのは、知識とは教えられて覚えるものではなく、自分で作るものだということ。そして、そうした学びはとても楽しいということです。

最近は日本の教育界でも「主体的な学び」をキーワードにさまざまな試みがなされています。にもかかわらず、知識は教えてもらうもの、テストでよい点を取るためのもの、というマインドが染みついて抜けていない。そのことが「学び」をつまらなくしているように思います。

そもそも私たちは誰しも自分の力で知識を得て大人になってきました。その最たるものが言語習得です。赤ちゃんは誰から教わるでもなく言葉を覚えます。赤ちゃんは環境内にある言語を自ら分析し、仮説を立てて使い、修正するというサイクルを自然と繰り返しているのです。

言葉にかぎらず、子供は世界を探索しながら、経験を通して知識を蓄積しています。ところが学校に入ると、学びとは教室で座って先生の話を聞くこと、テストで効率よくいい点を取ることとされてしまうのです。

現代社会はとかく相対的な序列で学力や知的能力を測ろうとしますが、偏差値やランキングなどの相対的な位置づけは、自ら切り拓く学びの力とは関係がありません。

 

学びの喜びは自分が変わること

分野にかかわらず、一流の熟達者で「一番になる」とか「お金を稼ぐ」ことを目標にしている人はいません。彼らはもれなく、「今までできなかったことができるようになること」に喜びを見出し、自分が少しでも成長すること自体を報酬にしているのです。

目標に向かって取り組む中で、自分自身が日々変わっていくのが楽しい。そういうマインドを持てればしめたものです。

「モチベーションを上げるために報酬を与える」という考え方がありますが、外からの報酬には注意が必要です。しばらくのあいだは効果があっても、ある時点で頭打ちになるからです。効果を持続させるには、報酬を上げ続けなければいけません。

それを実現しているのがテレビゲームです。ゲームの報酬には際限がありません。プレイヤーの技術が上がれば上がるほど報酬が上がり続けるようにできているから、ハマるのです。

でも現実には報酬は上がり続けません。報酬をモチベーションの源にするかぎり、いずれ燃え尽きてしまう。志望校合格だけを目指した結果、大学入学後に目的を見失ってしまう人がいるのもそのせいです。

知らなかったことを知ることで自分自身が変わっていく楽しさは、一度味わうと病みつきになります。学びの本質的な喜びを体感できるような教育が、今求められていると思います。

探求したいものや好きなことは、人によって違います。先生がクラスの子一人ひとりを手取り足取り指導するのは不可能です。だからこそ、自分で「学び方」を体得することが大切なのです。

そこでの教育者や保護者の役割は、引っ張り上げるのではなく、下から支える「足場かけ」。子供から疑問を投げかけられたとき、「それは先生に教えてもらいなさい」と言ってしまうと、「知識とは先生に教えてもらうものなのだ」という思考を植えつけてしまいます。

まずは「おもしろいね。一緒に調べてみようか」と子供の好奇心に寄り添って足場をかけ、徐々に足場を外していきましょう。そうすれば子供は学び方を覚え、自分でどんどん学んでいきます。

そのようにして獲得した「生きた知識」には終わりがありません。しだいに応用力がついてきて、結果的にテストでも高得点が取れるようになります。

私たちは日常で出合うさまざまな事象を理解する際、つねに自ら「行間を補って」います。このとき行間を補うのに前提となる常識的な知識を、心理学では「スキーマ」と呼びます。

たとえば、算数が苦手な子は、このスキーマ自体が間違っているパターンが多い。2分の1と3分の1でどちらが大きいかがわからない中学生が25パーセントもいるのです。こうしたつまずきに陥っている人に正解や問題の解き方だけを教えても効果はありません。まずはスキーマ自体をほぐしてあげることが大切です。

 

失敗するから修正できる

スキーマを確立する上で重要なのは、自らの経験に紐づけることです。とくに骨格となる概念は経験を通して自分で作っていく必要があります。

経験にもとづけば生きた知識が作れますが、人間ですから間違うことも当然あります。でも、間違うことは悪いことではありません。間違った知識を獲得しても、使ううちに過ちに気づき、修正していけばいいからです。

絶対的に正しいスキーマは存在しないし、誤ったスキーマを作ってはいけないわけでもありません。そもそもスキーマを持たなければ人は学ぶことができないのですから。

実際、幼い子供は7、8割合っている程度の言語力で、どんどん言葉を使っていきます。そのおかげで語彙が一気に増える。

自ら学ぶ手がかりを探し、試行錯誤を重ねて増やした知識は、次の学びに使えます。さらに知識を増やし、学び方も修正できる。子供は母語習得において自然とそうした学びを行なっているのです。

生きていく上で修正力は非常に大事で、間違わなければ修正力も身につきません。昨今は保護者も教育者も、子供が失敗しないようにとお膳立てをしすぎていますが、失敗は重要なのです。失敗を経て何かを学び、克服できたとき、人の精神力は最も鍛えられますし、自己肯定感も高まります。

 

学びを続けるコツ

はりきって始めたのに続けられないという人は、目標設定を見直してみましょう。大事なのは自らの成長を実感できること。5年は続けなければ達成できないことを始めたのに、半年で成果が見えないと「もうダメだ」とあきらめていませんか?

自分は今何ができて、何ができないのか。冷静に自己分析し、現実的な目標設定をすれば、どこまでできるようになったかを毎日実感することができます。短期的な成長という報酬を自分に与えつつ、長期的なビジョンを見据える。この両方が、学びを続けるコツです。

また、間違ったスキーマを一生持ち続けてしまうと、新たな学びが得られません。無意識のうちに染みついた自分のスキーマを振り返り、意識的に修正していくことが非常に重要です。

外国語学習が難しいのも、スキーマの違いのせいです。スキーマは生活経験から作られるもの。大人は修得したい外国語のスキーマを持たないので、その言語には通用しない母語のスキーマを使ってしまいがちです。こんなに英語を勉強しているのに身につかないという人は、スキーマの部分から見直して英語を探求してみると、おどろくほど伸びると思いますよ。

 

【今井むつみ】

1989年、慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。'94年、ノースウェスタン大学心理学部Ph.D.取得。専門は認知科学、言語心理学、発達心理学。著書に『学びとは何か』『英語独習法』(以上、岩波新書)、『言語の本質』(共著、中公新書)などがある。

関連記事

アクセスランキングRanking

$(function(){ var imageCount = 1; // image 総数 var page_url = '/article/12050'; var showLink = true; });