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生き方

同じ毎日の繰り返し...今になって思い出す「典型的な昭和の主婦」だった母の生活

岸本裕紀子(エッセイスト)

2025年03月31日 公開

同じ毎日の繰り返し...今になって思い出す「典型的な昭和の主婦」だった母の生活

エッセイストの岸本裕紀子さんは、典型的な主婦の暮らしをする母の人生が、かつてつまらないものに見えたと回想します。しかし、現在はそんな母の生活をふと思い出す瞬間があるそうです。

※本稿は、月刊『PHP』2025年3月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

「活動八分目」の生き方

母のお弁当は海苔が2段に敷いてあって、そこに卵焼きが入り、他におかず2品というのが決まりだった。ユリの絵が描いてあるアルマイトのお弁当箱に薄くご飯を盛ってまずお醤油につけた海苔をのせる。それがしっとりしたらまたご飯をのせて海苔を敷くというものだった。

おやつも母の手作りが多かったが、その代表は、ゼリーと蒸しパンである。2パターンあったゼリー型のどちらかで、透明のゼリーにイチゴを入れたものか、牛乳のゼリーに缶詰のミカンや黄桃を入れたものが定番だった。

その同じゼリー型で、母は、冬になるとよく、干しブドウ入りの蒸しパンを作ってくれた。ほんのりクリーム色の生地に紫色の干しブドウが散ったゼリー型の蒸しパンは小さくて、私は3個は食べたと思う。

今思い出しても、母はずっと毎日、同じスケジュールで暮らしていた。朝起きて、子供たちのためにお弁当を作り、父と私たちに朝ご飯を食べさせて、職場と学校に送り出す。その後、一人でサラダとトーストといり卵という朝ご飯を食べた。

食後は洗濯と掃除、11時ごろゆっくりお茶を飲みながら隅から隅まで新聞を読む。昼は残り物で済ませて、午後には庭いじりをしたり雑誌を読んだり歯医者に行ったりした。

夕方の早い時間に夕飯の買い物に出るが、スーパーではなく、魚は魚屋、野菜は八百屋に行き、戻ると必ず古いペンにインクをつけながら家計簿をつけた。夜はアイロンがけとか、セーターを編むとか、手紙を書くとか、姉妹と電話で話すとか、テレビを観るとか。

このルーティーンは典型的な昭和の主婦の生活と言えるかもしれないが、母は介護を担う必要がなく、仕事もせず時間はあったと思うから、やろうと思えばいろいろできたと思う。旅行に行く、趣味を楽しむなどである。

しかし、母は、健康のために運動をしていたわけでも、畑を作って野菜を育てるわけでも、料理を極めたりしたわけでもなかった。一人での外食はほとんどせず、洋服を買うなどのショッピングも好きではなかった。

当たり前のことを丁寧に繰り返す毎日──。それを若かった私は「面白くない」「省エネすぎる人生だ」と感じ、自分は違った道を歩むと決めていた。

しかし今、仕事に追われたり、つまらないことでダラダラ時間とエネルギーを使いすぎたり、そのために家の中が散らかり、日常の歯車が狂い、小さなストレスをため込んだりすると、母のあの毎日の繰り返しを思い出す。安定して、強くて、心穏やかなあの「腹八分目」ではなく「活動八分目」の生き方を、である。

 

【岸本裕紀子(きしもと・ゆきこ)】
1953年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、女性誌編集部勤務を経て渡米し、ニューヨーク大学行政大学院修士課程修了。帰国後、文筆活動を開始。女性の人生を扱うエッセイのほか、社会評論も手がける。『定年女子』シリーズ(集英社文庫)など著書多数。

 

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