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不安に押しつぶされそうな人へ...「脳の仕組み」を理解して心を落ち着ける1つの方法

大平信孝(メンタルコーチ)

2024年03月13日 公開 2024年12月16日 更新

メンタルコーチの大平信孝さんによれば、不安は、生きていくための脳の防衛本能だといいます。しかし不安な気持ちを抱えながら過ごすのは誰にとってもつらいものです。マイナスな感情をコントロールする方法とは? 本稿で解説いたします。

※本稿は、大平信孝『「すぐ動ける人」の週1ノート術』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

 

不安はなくならないことを知る

今、不安に押しつぶされそうな方に最初に知っておいてほしいことは、「不安はゼロにはならない。不安はなくならない」ということです。

ですから、不安を一方的に敵視して完全になくそうとしないでください。それよりも、不安の正体や対処する方法を知って、実践するほうが効果的です。

ところで、不安の正体について、考えたことがありますか? 簡単に分類すると、不安は2種類しかありません。「持ち越し苦労」と「取り越し苦労」です。

「持ち越し苦労」とは、過ぎてしまったことについて、悔やんだり不安になったりすることです。

・どうしてあんな失敗をしてしまったんだろう
・また同じ失敗を繰り返すかもしれない
・行動したくても過去の苦い経験が邪魔して動けない

といった場合は持ち越し苦労が原因です。要するに、意識が「過去」に向きすぎているから、過去の失敗に足もとをすくわれているのです。持ち越し苦労は、記憶力のいい方や真面目な方が持ちやすいものです。

もう1つの「取り越し苦労」とは、まだ起きていないことや未来のことを考えて、不安になったり心配したりすることです。

・こうなったらどうしよう
・このままではまずいのでは
・失敗したらどうしよう

といった場合は取り越し苦労が原因です。要するに、意識が「未来」に向きすぎているから、未来への不安からフリーズして動けなくなったり、暴走してしまうわけです。取り越し苦労は、未来を先読みする力がある方や考えるのが得意な方が持ちやすいものです。

どちらの不安にしても、不安はもともと私たちが持っている脳の防衛本能の一種です。脳の仕組み、生命維持のための防衛本能なのです。

人類は「常に最悪の事態を想定する」という取り越し苦労のおかげで外敵を警戒し、命を守り、子孫を繁栄させてきました。現代でも、「最悪の結果を想定したうえで、そうならないように対策を練る」という取り越し苦労のおかげで、不測の事態を回避できている面もあるのです。

さらに、経営者やトップアスリートには、取り越し苦労派や持ち越し苦労派の方も多く、「不安=悪」というわけではありません。

そうはいっても、不安すぎる状態からは抜け出したいし、これ以上落ち込みたくないですよね。不安は脳の防衛本能だから、ゼロにするのは難しい。でも、不安もエネルギーなので、扱い方によっては、前に進む力に変えることができます。

 

不安は否定しないで認める

・自分なりに不安を払拭しようと試行錯誤しているけれど、いつもの状態に戻れない
・あまりに心配で、これ以上不安を感じすぎないように感情や思考に蓋をしている

......そんな、今、不安に押しつぶされそうな方へ。大丈夫です。その状態は永遠には続きません。

先行き不透明なときに、この先の生活や仕事、人生を考えると不安な思いばかりが出てきてしまい、落ち込んでしまうのは、先述したように脳の防衛本能ですから自然なことです。脳は非常時には、命を守るために希望や期待よりも不安を強く感じるようにできています。

ですから、まず否定しないで受け入れてください。誰でも、一時的に不安になることはいたしかたない自然なことです。むしろ、「焦っている・不安・心配・怖い」といった危険信号が点滅しているのに無視しているとしたら、そのほうが危険です。

ごまかさないでください。無理やり、ポジティブを装わないでください。どんなに不安になっても、どんなに絶望的な状況に追い込まれても、生きている限り、そこから抜け出すことはできます。冷静に考えることができれば、抜け出す方法はいくらでもあります。

ですからまずは、自分が感じている不安や焦り、恐怖、ショックなどを否定しないで受け入れてください。

「今は、不安なんだね」「今は、不安に押しつぶされそうなんだね」「今は、未来に希望なんて見出せないくらい一時的にショックを受けているんだね」
そうやって、受け止めてみてください。

不安を認めた後に、知っておいてほしいことは、「不安の度合いはコントロールできる」ということです。つまり、「不安をなくそう」と努力するよりも、「不安の度合いをコントロールする」思考に切り替えることがポイントです。

そして、不安は、変わる時期にきているというサインでもあります。あなたが新しいことを始める時期にきているということであり、ある意味でチャンスが到来しているのです。不安、大変、しんどい、つらいというときこそが、実は大きく変わるチャンスなのです。

 

自分の「不安の度合い」を把握する

「不安の度合い」が強すぎると、思考停止、行動停止、感情停止してしまいます。これは脳の防衛本能ですから、反応自体を止めることは難しいです。ですが、「不安の度合い」自体は、ある程度コントロールすることができます。

不安の度合いは、大きく3つに分類することができます。

コンフォートゾーン、ラーニングゾーン、パニックゾーンの3つです。

コンフォートゾーンとは、安心安全、いつも通りなので、心地いい状態です。要するに、ほとんど不安を感じない状態のことです。

しかし、コンフォートゾーンでは、成長できません。挑戦しないので失敗することも恥をかくこともない代わりに、進歩、成長、発見、発展、気づきなどもほとんどないのです。ある意味で、ぬるま湯状態です。

ラーニングゾーンとは、適度な不安状態のことをいいます。つまり不安と期待が適度に入り混じっている状態です。例えば、異動、転職、引っ越し、結婚、家族関係の変化など、今までとは違う新しい環境になると、コンフォートゾーンの外側にある「ラーニングゾーン」に移行します。

実は、学び、成長、気づき、新しい出会い、ご縁の深まりといったことは「ラーニングゾーン」にいるときに得やすいのです。

パニックゾーンとは、不安が強すぎて、本来の力を発揮するのが難しい状態です。過大な負荷をかけ続けると、ラーニングゾーンの外側にある「パニックゾーン」に移行します。

自分にとって、難しすぎること・苦手すぎること・新しすぎることに立て続けに挑戦したり、対応せざるをえなくなったときに起こりがちです。

あるいは、ありえない事態などに遭遇すると、人はパニック状態になります。択一になってしまいます。つまり、思考停止、行動停止、感情停止してしまうのです。

 

紙に書き出し、対策を冷静に考える

パニックゾーンに陥ってしまったときに知っておいてほしいこと。それは、「不安は、否定したり隠したりすると増幅する」ということです。

不安への対処の仕方を間違えると、さらに不安が増幅したり、不安に飲み込まれてしまったりと、ちょっとやっかいなことが起こります。

ですが、不安は正面から向き合うと、希望や勇気、行動する力に変えることができます。正面から向き合うなんて大変そう......、そう思った方も安心してください。必要なのは紙1枚とペンだけ。しかも、やることは次の2つだけです。

【不安を紙に書き出す2ステップ】
・ステップ1
紙の左半分に「不安に感じていること」を箇条書きですべて書き出す。
・ステップ2
書き出したものを眺めて深呼吸。紙の右半分に1つずつ対策や今できることを書いていく。

これだけです。不安解消のためには、いきなり動くことはおすすめしません。というのも、その場しのぎや、行き当たりばったりで動くと、ますます不安になってしまうことが多いからです。

ですから、不安を感じているときは、まずは不安を書き出して一呼吸おく。そして、対策を書き出してみることをおすすめします。冷静になって考えることができれば、どんな不安に対しても対策は無数に考えられます。

まずは、「いま抱えている不安をすべて書き出す」。そこから始めてみてください。

実際にやってみるときの参考として、私が主宰するオンラインサロンメンバーのKさんが実際に書いたメモをご紹介します(まず●で始まる「不安に感じていること」にざっと目を通して、その後で→で始まる「対策=今できること」を読んでみてください)。

●会社が潰れたらどうしよう
→転職サイトに登録する
→会社がなくなったとしても通用する技術を身につける
→社外の人脈を築くために勉強会に参加する
→専門知識を身につけるために任意の研修を受ける

●家族を養っていけるのか
→貯金がいくらあるのか確認する
→1ヶ月家族4人で生活するのに必要な金額を確認する
→現在の貯金で何ヶ月生活できるか確認する
→節約できることがないかパートナーと話し合う
→いざというとき助けてもらえそうな人をリストアップする

●転職先を見つけることができるのか
→転職サイトに登録する
→転職した元先輩とランチのアポを取る
→今の業界から別の業界に転職した人がいないか調べる
→恩師に相談する

●子どもが不登校気味なのが気になる
→不登校についてネットで情報収集する
→担任や学年主任、校長に相談できないか検討する
→子どもに合ったフリースクールを調べる
→子どもをフリースクールに通わせている知人にアドバイスをもらう
→転校、引っ越しの可能性を考える 

●家のローンは払っていけるのか
→万一払えなくなったときに使える制度を調べる
→猶予の制度がないか調べる
→もしいま売却したらどれくらいローンが残るのか調べる
→借り換えを検討する

●頭痛がひどいが、悪い病気かも
→健康診断を受ける
→かかりつけ医に相談する
→最近食べたもの、飲んだものを確認する
→自宅や会社の環境に原因がないか確認する

●旅行の予約をキャンセルするか迷う
→キャンセル可能期間を確認する
→最終決断をいつまでにすればいいか確認する
→最大のリスクは何か、最大のメリットは何か確認する

●同僚が咳をしているのが気になる
→病院に行くことをすすめる
→社内の換気をマメにする
→早寝早起きして自分の免疫力を上げる
→同僚の仕事で手伝えるものがあれば引き受ける

●自分の人生このままでいいのか
→本当はどうしたいのか考える
→このまま行った場合どうなるのかシミュレーションする
→本を読む
→信頼できる人に相談する

「不安に感じていること」だけを最初見たときは、Kさんでなくても「これは大変だな......」と少し不安な気持ちになったのではないでしょうか。

でも、「対策=今できること」を読んでいくうちに、「どんな不安に対しても、打つ手はいろいろとあるんだな」と思ったはずです。

Kさんも、「不安を書き出すことで客観視できて冷静になれたうえに、やるべきことが明確になり元気が湧いてきました」とスッキリした表情で変化を教えてくれました。

こうしてパニックゾーンから抜け出せたら、不安というエネルギーを前に進むエネルギーとして活用してください。つまり、ラーニングゾーンで適度な不安を感じながら、日々行動していくのです。

 

著者紹介

大平信孝(おおひら・のぶたか)

アンカリング・イノベーション代表

中央大学卒業。長野県出身。
脳科学とアドラー心理学を組み合わせた、独自の目標実現法「行動イノベーション」を開発。その卓越したアプローチによって、これまで1万5000人以上の課題を解決してきたほか、オリンピック出場選手、トップモデル、ベストセラー作家、経営者など各界で活躍する人々の目標実現・行動革新サポートを実施。その功績が話題となり、各種メディアからの依頼が殺到。現在は法人向けにチームマネジメント・セルフマネジメントに関する研修、講演、エグゼクティブコーチングを提供。これまでサポートしてきた企業は、IT、通信教育、商社、医療、美容、小売りなど40以上の業種にわたる。
「2030年までに次世代リーダーをサポートするプロコーチを1000人輩出し、日本を元気に!」を目標に掲げ、プロコーチ養成スクール「NEXT」を開講。

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