近年の極端な暑さや寒さに、体調を崩しやすくなったという人も少なくありません。海外などへの遠征も多いプロアスリートたちは、どのようにしてその土地の気候に適応しているのでしょうか。
スポーツトレーナーの中野崇さんは、新著『『40代からの脱力トレーニング』にて身体を疲れにくくするための「脱力」について解説しています。同書より、アスリートが実践する暑さや寒さに疲れないための方法をご紹介します。
※本稿は、中野崇著『40代からの脱力トレーニング』(大和書房)より内容を一部抜粋・編集したものです
「急激な気温の変化」の対処法
Q 最近、夏は暑すぎ、冬は寒すぎて自律神経が乱れがち......。休んでも疲れが取れません。さまざまな国や地方への遠征も多いプロアスリートは、急激な環境の変化(気温の変化)に対して、どのように対応しているのでしょうか?
A アスリートがやっている気温の変化への対策は、大きく分けて2つの方針で成り立っています。個人差もありますが、アスリートでない方にも十分役立ちますので、プロアスリートの暑さ対策・寒さ対策を、それぞれご紹介します。
夏の「酷暑」による疲れ対策
<当日の対策>
熱中症などで体内に熱がこもってしまうと、判断の低下などパフォーマンスが大きく低下してしまいます。そのため、試合や練習の当日に行なう対策は、体内の熱を外に放出することが重要視されます。
◆水分・塩分補給
身体の水分比率は約60%、とくに筋肉は約70%です。つまり水分は筋肉の機能や代謝に深く関与し、不足するとパフォーマンスの低下や疲労の原因になります。なので、やはり水分補給は重要です。
また、発汗と一緒に失われるナトリウムやマグネシウムなどのミネラル成分も補給が必要です。手軽にそれらを補給できる市販品を利用するのもアリですが、甘味料などがたくさん入っているものは内臓への負荷が高くなるため、注意が必要です。
私は、プロアスリートには「塩」にはこだわってほしいと伝えています。化学工業的な方法でつくられたものではなく、海水由来の天日塩などできるだけ伝統的な方法でつくられたものを勧めています。含まれる栄養素が大きく異なりますので、ご自身でも調べてみてください。
◆手・首・わきのアイシング
毛細血管が多い部位に対して、氷嚢などを使って直接冷却します。血液が冷やされることで、体温を下げる作用があるからです。運動後だけでなく、運動前や運動の合間にも行ないますので「プレクーリング」「インターセッションクーリング」と呼ばれることもあります。
◆アイスバス
簡易プール(お風呂でも可)に水と氷を入れて、10分から15分程度の半身浴を行ないます。こちらもアイシングの一部ですが、かなり冷却効果が高いので、通常は運動直後にのみ行ないます(終了後30分以内)。
◆気化熱の利用
霧吹きなどのスプレーで皮膚表面を濡らし、うちわや扇風機などを使って風を当てる方法です。液体(主に水)が蒸発する際に周囲から熱を奪う物理的プロセスを利用して冷却を促進することができます。皮膚が濡れた状態で風を浴びることは、主観的な快適さもかなり得られるため、暑さによるストレスの軽減にも有効です。
<準備(身体づくり)>
当日の対策に加え、暑さに対する耐性を高めるための身体づくりも行ないます。とくに、日本の夏は高温多湿。身体に対する負担は非常に大きく、酷暑環境でもパフォーマンスを維持するという観点では、当日の対策だけでは不十分だからです。
◆暑熱順化
身体を暑さに慣れさせることを意味します。本格的に暑くなる前の6月ごろから、1週間から2週間程度の時間をかけて行なうのが一般的です。
多くのアスリートは徐々に気温が上がる中、屋外で運動を継続しているため、特別な暑熱順化は行なわずに適応できるケースも多いです。
ただし、海外での国際大会など、急激に気温が変わるケースは重要です。たとえば、日本の真冬に東南アジアや南半球の国で開催される場合、暑熱順化を行なわなければ、パフォーマンスの低下どころか熱中症のリスクが跳ね上がります。
冬場に暑熱順化を行なうには、人工的な環境で運動するなどの方法がとられています。アスリートでない方の場合は、気温が上がり始めた頃から徐々に屋外で活動する時間を長くするなど、ムリのない範囲での暑熱順化が望ましいでしょう。
◆入浴
暑熱順化の一部とも言える方法です。目的は、汗をしっかりかける身体をつくることです。熱中症など、暑さでパフォーマンスが落ちる1つの原因に、十分に発汗(皮膚表面からの気化熱による熱放散)できないことが挙げられます。
暑くなる前から、しっかり浴槽で身体を温めて、汗をかける身体づくりを行ないます。プロアスリートには40度前後の湯舟に約20分浸かること、朝と夜の2回の入浴習慣を勧めています。
夏場は半身浴でもOKです。半身浴は頭・上半身に溜まった熱を逃すことを目的とするからです。
ただし、冬場は肩・腕まで浸かって温まりましょう。腕には、手から背中まである長い神経と、経絡がたくさん通っているので、お腹を温めるのと同じぐらい大切です。上半身が十分に温まったあとは、半身浴に切り替えても大丈夫です。
◆身体づくり
お腹(とくにヘソ下)とふくらはぎを柔らかくすることを大切にしています。暑い期間は大量の水分摂取の影響から、膀胱や腎臓に負担がかかりやすくなります。
内臓は酷使されると疲労して固くなりますので、おのずと呼吸も浅くなります。すると、体内にとり込む酸素量が低下してさらに疲労が起こりやすくなるのは、既にお伝えした通りです。
ふくらはぎは、ポンプ作用を持つ、全身の血流に深く関与する部位です。常にふくらはぎがつきたてのお餅のように柔らかい状態を保つように身体を整えていきます。
冬の「極寒」による疲れ対策
冬の寒さが苦手、という方はいらっしゃるでしょうか。私も暑さには強いのですが、肌を刺すような寒さが身体の感覚を鈍くするので、冬がとても苦手です。
実際に、寒冷環境は、体温を維持するためにエネルギーを消費するので疲労にもつながりやすいのです。暑さに比べて、疲れを自覚しにくい人も多いと思いますが、しっかりと対策する必要があります。
<当日の対策>
お腹など、一般的に保温する重要度が高いとされている部位だけでなく、寒さを感知しやすい部位の保温も重要です。強い寒さを感知すると、体温調節のために交感神経が優位に働くようになってしまうためです。
とくに重要な部位は、首、耳、手首、足首です。できるだけ覆いましょう。また、喉や鼻の穴などの呼吸器官の粘膜を守ることも必ずやっておく必要があります。防御機能を低下させるからです。
とくにプロアスリートは遠征で、ホテルの乾燥した部屋で過ごすケースが多く、粘膜ケアの重要度はかなり高いのです。
よくやるのは、寝る前にワセリンを鼻の穴に薄く塗る方法です。当然、部屋はできるだけ加湿します。口を開けて寝てしまう人は、口閉じテープも有効です。
もう1つ、重要なポイントが水分補給です。寒いと水を飲む量が減りやすく、脱水が起きていることもありますので、夏以上に意識的に水分補給を行ないましょう。
<準備(身体づくり)>
実は暑さへの耐性づくりとほとんど同じです。要するに外部環境からの刺激に対して体調を維持する能力を高めるのです。
基本はお腹を柔らかくすること、深い呼吸ができること、全身の血流を高めておくことです。
冬場の入浴に関しては、肩まで浸かって腕を温めることは必須です。東洋医学ではよく言われることですが、その季節の旬の食べ物を摂ることも推奨しています。冬が旬の食べ物は身体を温める作用を持つものが多く、身体の深部が冷えやすい季節にぴったりです。
食べ方は鍋料理がお勧め。部屋の温度と湿度も上がり一石四鳥ぐらいの価値があります。