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生き方

「2歳の子に卵を渡してみたら、人生が変わった」イヤイヤ期に疲れたママが食育のプロになるまで

武田昌美

2025年07月29日 公開

「子どもが料理なんて絶対無理!」と断言していた一人の母親が、なぜ子ども専用料理教室を運営するまでになったのでしょうか。世田谷区で「リトルシェフクッキング」を主宰する武田昌美さんにとって、食育の専門家になることは「夢にも思っていなかった」転身でした。 2歳の娘との卵割り体験から始まった9年間の歩みを通じて、子育てへの向き合い方の変化、そして「失敗は成功の一歩前」を大切にする武田さんの想いについて語っていただきました。

 

イヤイヤ期の2歳児がママの運命を変えた

東京都世田谷区にて子ども専用料理教室「リトルシェフクッキング」を運営している武田昌美です。今でこそ、食育のお仕事をさせていただいていますが、まさか自分が食育の専門家となるなんて、当時は夢にも思っていませんでした。なぜなら私自身が、子どもが料理なんて絶対無理!ちょっと混ぜるくらいならできるかもしれないけど、全部任せるなんて...とんでもない。キッチンも汚れるし、ぐちゃぐちゃになるし、絶対嫌!と考えていました。

そんな私が重い腰を上げて"食育"に出会ったのは、9年前のことです。

当時イヤイヤ期真っ只中だった2歳の娘が発したひと言。

「ママ、お料理したい!」

何をしても「イヤ!」しか言わなかった娘が、料理にだけは強く興味を示しました。

 

2歳の娘との卵割り大作戦

一度スイッチが入ったら、あらゆる手段で「やりたい」をアピール。それはもう、怪獣みたいに(笑)。この時の材料は「卵」でした。お昼ご飯の支度で卵を割ろうとしていたところを娘が目ざとく見つけて、「私もー!」と騒ぎます。ここで頭の中は究極の2択に迫られます。2歳児×卵というまるで禁忌事項のような挑戦を果たしてやってみても良いのだろうか。もしくは、このままなだめて他のものに興味を移すか。結局私はせっかちな性格なので、ぐちゃぐちゃになった卵を拭く作業の方が、怪獣をなだめるよりも早く終わると観念しました。

「卵、持ってみる?」と聞くと、キラッキラの目で「うん!」と勢い返事をします。そのまま卵を持った娘は、すぐにギュッと握りしめて...。案の定、卵はバチャッと飛び散りました。娘は、自分の予想と違う卵というものの正体を前にポカンと立ち尽くし、「卵、壊れた!」と叫びます。まるで大発見をした科学者のように(笑)

「もう1個いる?」と聞けば「いる!」と即答。今度は卵を宝物のように両手でそっと包み、そーっとトントン...トントントントン...永遠に割れる気配はありません。しびれを切らして、また力を込めてドンと卵を机に叩きつけ、再びぐちゃっと割れ、床にまで飛び散る卵...親にとってはとんだ大惨事でしたが、彼女の卵への探究心に火がついた瞬間でもありました。

 

失敗から生まれる「できた!」の成功体験

それ以来、我が家では「卵割り」が娘の日課になりました。卵を見ると「割る!」と駆け寄ってきます。断ろうものなら、大泣きどころか、床に寝転び大惨事です。けれど、こちらも諦めてやりたいようにやらせてみると、驚くほどあっという間に上達していきました。

卵がどれくらいの力で割れるのか、どんな風に中身が出てくるのか、何度も試行錯誤するうちに、卵というものを頭で理解し、それに連動して手も動かせるようになったのです。そして、はじめてきれいに割れた瞬間、「ママ、できた!!」と叫んだ笑顔は今でも忘れられません。

この「できた!」という感覚こそが、子どもにとってかけがえのない成功体験です。

私は料理を通じて「あなたは何でもできる」というメッセージを届けたい。失敗しても、くじけないで挑戦し続けること。その先にある達成感が、きっと未来を切り拓く自信になるからです。

だからこそ、私が料理を通じて子どもたちに一番伝えたいのは、「失敗は成功の一歩前」という言葉。料理教室では毎回のレッスンのお約束として皆で確認します。だから「失敗は成功の...?」と聞くと、「一歩前!」と元気に返してくれる子どもたちの声に、私は毎回うれしくなります。失敗を恐れて何もしないより、失敗しても「どうしようか?」と考える力を育むことのほうが、ずっと価値がある。失敗を「悪いこと」と捉えるのではなく、「次の行動のチャンス」と受け止められるようにしてあげたいのです。

 

チーズプリンの発見とレシピにない自由さ

ある日のレッスンでチーズケーキを作っていた時のこと。卵をうっかり半分こぼしてしまった子がいました。泣きそうな顔で固まるその子に、「ボウルには半分卵が残ってるね。どうする?このまま使う?それとも新しく割る?」と尋ねると、「このまま使う」と答えました。自分で割った卵を大事にしたかったのでしょう。こぼれた分は牛乳を少し足して補い、あとは皆と同じように作業を進め、焼き上げたら、チーズケーキではなく、チーズプリンが完成!

「卵こぼれちゃったけど、新しいレシピできたね!」と声をかけると、彼女は満面の笑みでまわりに料理を披露していました。

このような体験の積み重ねが、子どもたちの「失敗=終わり」ではなく、「失敗=閃きのチャンス」という価値観を育みます。料理に"正解"はありません。クッキーの型抜きがうまくいかなくても、丸くして焼いたらいい。卵割りを失敗して、たくさんの卵が割れたら、大きなオムレツにすればいい。子どもとの料理は、根詰めず、レシピの正しさに縛られず、「我が家流」のアレンジや適当さを楽しんでほしいと願っています。

人生は、失敗の連続です。小さな頃から「失敗は成功の一歩前」と心に刻んで育った子は、壁にぶつかっても折れにくく、しなやかに立ち上がる力を持つようになると思っています。

私が料理で伝えたいのは、テクニックや知識だけではありません。どんなときも、「失敗しても大丈夫」という心の余裕を子どもの心に残してあげたいのです。そして諦めずに挑戦した末にある「できた。」を経験し、自信をたくさん育んでほしいと願っています。

 

【執筆紹介】武田昌美(たけだ・まさみ)
「リトルシェフクッキング」代表取締役。子ども料理研究家。立教大学法学部卒業。日系航空会社にて客室乗務員をしながら、各地の料理や文化に触れ見聞を広める。フランスで料理の修業をしていた父の影響を受け、幼少期より料理を学び、フードコーディネーター、食育アドバイザー、幼児食インストラクターの資格を取得する。スパイスマイスター、食品衛生責任者の資格を取得。

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