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生き方

敢えて嫌いなことにチャレンジする 脳を活性化させる簡単な心がけ

保坂隆(精神科医)

2025年08月22日 公開

敢えて嫌いなことにチャレンジする 脳を活性化させる簡単な心がけ

女優の森光子さんは90歳近くまで舞台に上がり続けましたが、何十年も風邪一つひかなかったそうです。その健康の秘訣として知られるのは、毎日欠かさず塩水で鼻うがいをし、高齢になってからも、スクワットを何十回もしていたこと。さすがですね。

さまざまな世界で長く活躍されている方たちは、皆さん、健康に対する意識が高く、それぞれ努力をされています。もちろん、現役で仕事をされている責任感もあると思いますが、「何歳になっても健康で過ごしたい」と願うのは誰でも一緒です。

では、健康で、病院や薬の世話にならない生活を送るためには、どうしたらいいのか? 実はそのほとんどが、それほど難しいものではなく、日常の小さな改善の積み重ねにあります。

本稿では、日常の中でちょっとした心がけで脳を活性化させる方法「嫌いな事、初めてのことにチャレンジする」「ポジティブに考える」について精神科医の保坂隆さんに解説して頂く。

※本稿は、保坂隆著『精神科医が教える 心と体の「老後のイキイキ健康術」』(PHP文庫)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

「嫌いなこと」「初めてのこと」を手がけると脳が元気に

 知り合いから、こんな話を聞かされることがあります。

「夫がリタイアしたんですけど、朝から晩まで家でグータラしているんですよ。出かけるでもなく、趣味を楽しむでもなく......。どうせ家にいるのなら、家事の一つでも手伝ってくれればいいのに」

要するに、退職したご主人が家でゴロゴロしていることに、奥さんはイライラしているというわけですね。

しかし、そんなときこそ奥さんに試してほしいのが、思っていることとは"反対の言葉"をあえて口にする方法です。

たとえば「朝、ちゃんと起きてよ!」と思っていても、「これまでずっと働いてきたんだから、少しはゆっくりしていたら?」といった言葉にします。

「掃除くらい手伝ってよ!」ではなく、「掃除をするから、書斎にでもいてくれるかしら。それとも、掃除をしている間、ちょっと散歩でもしてくる?」といった言い方にするのです。

「言霊」という言葉があります。人は"思い"を言葉にすると、実際にその気になってしまうもので、たとえば、やさしい言葉を口にすれば、不思議なことに、やさしい気持ちになれるのです。

それは、言われた側にも伝わり、「退職してしばらく経つから、そろそろ何か新しいことでも始めようか」とか、「若いころに好きだった趣味を再開してみようかな」というような、前向きな気持ちにさせたりする力もあるのです。

ご近所づきあいにしても同じですね。

「また、ご旅行ですか? 優雅ですねぇ」
と、うらやましがられているのか、嫌味なのか、わからないことを言われるときもあるでしょう。

「昨日は、お庭でバーベキューだったんですね。ずいぶんにぎやかでしたよ」

と言われ、「うるさかったということか......」などと気になるかもしれません。しかし、いちいちカチンときたり、ムッとしたりすることはありません。

心の中では「よけいなお世話だ」と思っても、
「いつも気にかけてくださって、ありがとうございます」
と逆の話し方にするのです。

「思ってもいないことを口に出すと、余計にストレスになるのではないか」と思うかもしれませんね。しかし先ほど述べたように、言葉にはそんな心配を吹き飛ばす力があります。だからこそ言霊と呼ばれるわけです。

心理学的に言えば「言葉による自己暗示」ということで、あるドクターは、この「反対語を口にする」という方法を治療に取り入れて大きな成果をあげています。

さて、この方法をさらに発展させた形が、自分の「やりたくない」「嫌いだ」と思っていることを、あえてやってみるというものです。

たとえば、「掃除は女性がやるもの」「食器の後片付けなんか大嫌い」と普段から思っていたら、あえてその掃除や後片付けにチャレンジしてみるのです。

もちろん、「嫌だ、嫌だ」「苦痛だ」という気持ちは捨てて、「なかなか楽しいものだ」「けっこう面白い」と考えながらやってみます。言霊効果で独り言をつぶやきながらでもいいでしょう。

こうすると、やりたくないと思っていたことが意外に面白かったり、逆にストレス解消になったりすることもあるのです。

さらに、「初めてのことにチャレンジしてみる」のも心を元気にしてくれます。「初めてのこと」といっても、大げさに考える必要はありません。いつもの散歩道とは違う道を歩いてみたり、いつものスーパーとは違うお店へ新しく行ったりするなど、些細なことでもいいのです。

83歳で大往生を遂げた永六輔さんは、生前、「いつもは曲がらない道を曲がって、見知らぬ横町に入れば、それが旅の始まり」と言っていました。

ほんのちょっとの寄り道にも、必ず「発見」があるはずで、そんなちょっとした感動が脳にとってもいい刺激になります。

いつもの散歩道なら"安心"ですが、しかし脳の活性化にはつながりません。普段とは違う道を歩いてみたり、わざわざ電車に乗って見知らぬ町のスーパーに足を運んでみれば、普段目にするのとは異なった町並みを歩くわけですから、脳が驚いて元気になってくれるというわけです。

新しい趣味にチャレンジしてみるのもいいでしょう。カルチャー教室へ初めて参加すれば、そこにいるほぼ全員が初対面になります。当然、かなり緊張しますが、それこそが脳の力を高めてくれる緊張感です。

いい緊張状態を経験するのは、脳も心も元気でいられる秘訣なのです。

 

「悲観的」に考えるほど、脳の働きは衰えてしまう

飲んでいるコップの水が半分になったとき、「もう半分しか残っていない」と感じるでしょうか? それとも「まだ半分も残っている」と思うでしょうか?

この質問で、たいていの人はピンと来ると思いますが、「もう半分しかない」と感じる人は物事を悲観的に捉える傾向があり、そして「まだ半分も残っている」と思える人は物事を楽観的に捉える傾向があります。

もちろん、どちらが正しいと言うことはできません。つまり、悲観的な考え方が短所とは限らないわけです。なぜなら、「もう半分しか残っていない」と感じる人は、慎重で用心深いといった長所をもつことも少なくないからです。

一方、楽観的に捉えるのが長所かといえば、必ずしもそうとは言えません。「まだ半分も残っている」と思う人の中には、「適当で、いい加減で、行き当たりばったり」なんていう人もいたりします。

ただ、もし長生きしたければ、悲観的な考え方は捨てたほうがよさそうです。アメリカの大学の博士が、こんな調査結果を報告しています。

「ある修道院に暮らす180人の修道女たちが書いた自叙伝を分析して追跡調査したところ、楽観的な考え方の修道女のほうが悲観的な考え方の人よりも、およそ10年寿命が長かった」

たしかに、医学的に見ると、悲観的な考え方はセロトニンという神経伝達物質の分泌を妨げることがわかっています。セロトニンは前向きで活発な行動を促してくれる物質で、脳の活性化には欠かせません。つまり、悲観的な考え方は脳にも悪影響を及ぼすのです。

しかも、セロトニンの不足で、気分が塞ぎ込みがちになるので、ますます悲観的な考え方から抜けられなくなります。

逆に、楽観的に考えることや、「大丈夫」「心配ない」「できる」といったポジティブな言葉を使うと、脳の働きが活性化することもわかっています。

ただ、人それぞれの考え方には性格が大きく左右します。なかには、「今さら性格を変えられるわけがない」とあきらめてしまうシニアも多いようです。

しかし、せっかく「楽観的な人は悲観的な人よりも長生きする」という調査結果があるのですから、ここはぜひ"楽観的"にいきましょう。

その第一歩は、「楽しい」「うれしい」「面白い」「おいしい」など、何でもいいからポジティブな言葉を口にしてみることです。

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