女優の森光子さんは90歳近くまで舞台に上がり続けましたが、何十年も風邪一つひかなかったそうです。その健康の秘訣として知られるのは、毎日欠かさず塩水で鼻うがいをし、高齢になってからも、スクワットを何十回もしていたこと。さすがですね。
さまざまな世界で長く活躍されている方たちは、皆さん、健康に対する意識が高く、それぞれ努力をされています。もちろん、現役で仕事をされている責任感もあると思いますが、「何歳になっても健康で過ごしたい」と願うのは誰でも一緒です。
では、健康で、病院や薬の世話にならない生活を送るためには、どうしたらいいのか? 実はそのほとんどが、それほど難しいものではなく、日常の小さな改善の積み重ねにあります。
本稿では、日常の中でちょっとした心がけで脳を活性化させる方法「楽観的に考える」「指先を動かす」について精神科医の保坂隆さんに解説して頂く。
※本稿は、保坂隆著『精神科医が教える 心と体の「老後のイキイキ健康術」』(PHP文庫)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
歳を重ねたら「忘れて当たり前」と楽観的に考えてみる
クラス会で集まった仲間から、
「最近、もの覚えが悪くなって。ボケたかなぁ。どうすればいい?」
と聞かれたことがありました。そんなとき、私は逆にこう尋ねます。
「それで困ったことが起きているのか?」
すると、たいていの場合、
「まぁ、たしかに、困るほどのことはないけど」
と、ちょっとムッとした顔はしますが、大きなトラブルになっていることはなさそうです。
「あれこれ思い返して、よほど困ったことがなければ心配いらないよ」
と話すと、
「まあね......」
などと、照れくさそうにするケースがほとんどです。
そもそも、人の記憶力は"あやふや"なもの。
ある心理学者の研究では、「人は覚えたことの四割をわずか20分で忘れてしまう」とされています。その後も、記憶はどんどん風化し、1日たったら7割以上も消えてしまうそうです。
歳を重ねれば、記憶力が低くなっていくことは、すでに話したとおりです。前日の出来事を、たった4分の1しか覚えていなくても異常ではありません。
「いや、若い頃はちゃんと覚えていられた」
と言う人もいます。しかし、子どものときに宿題をよく忘れたり、大人になってからも"うっかりミス"を連発したりと、誰にでも忘れることはあったはず。もしかしたら、「以前、忘れたことを忘れている」だけではないでしょうか。
なかには「最近、もの忘れが気になるようになったが、もしかすると、これが認知症なのでは......」と心配している人もいるようです。
しかし、もの忘れと認知症は、似て非なるものです。「認知症になってしまったのでは?」という極めて高度で複雑な不安を感じていることは、認知症ではない可能性が高いので、ご安心ください。
たとえは悪いですが、お酒を飲んで少し酔った人は「あぁ、酔っぱらっちゃった」と言いますが、かなり酩酊状態の人ほど、「まだ酔ってない!」と言い張り、しっかりしたところを見せようとするものです。しかも、ろれつが回っていないから、「あだ、おってねぇ!」としか聞こえなかったりします。
そもそも、「忘れる」というのは私たちの脳にとって、とても重要なこと。身のまわりで起こったことをすべて覚えていたら、脳はたちまちパンクしてしまうでしょう。
まず、「忘れる」という現象を悲観的に捉えないことが大切です。悲観しすぎるとセロトニンという神経伝達物質の分泌が悪くなって、脳の働きが悪化してしまうことが分かっています。
「え、そんな話があったっけ?」
と、もし覚えていなかったとしても、不安になる必要はありません。本は何度でも読み返せますし、「忘れたらまた覚えればいい」と考えればいいだけです。
楽観的に考えるほど、脳の働きがよくなって、記憶力の維持やアップにつながるでしょう。
もし記憶力に自信がないならば、メモをとりましょう。手元にノートとペンをいつも用意しておき、思いついたことや忘れてはいけないことを、その場で書き留めるのです。もの忘れを心配に思うばかりで、何もしないのではいけません。
ノートをお勧めするのは、ペラペラの紙に書くと、すぐどこかにいってしまうからです。一冊のノートにまとめておくのが大事なんですね。
もし、自分の書いたメモを見て、「あれ、何のことだったかな?」となったとしても、悲しむことはありません。「さぁ、解読してやろう!」くらいの気持ちで、楽しんでしまえばいいのです。
指先を動かす」趣味をつくる──神経細胞を刺激しよう
人間の体には、神経細胞が張り巡らされています。しかし、その神経細胞は均等に張り巡らされているわけではありません。指先や唇、舌など、集中している体の部位があります。
神経細胞は刺激すればするほど活性化しますから、脳を元気に保つためには、たくさんの神経細胞が集中している体の部位を刺激すればいいということは、おわかりですね。
その一つが手の指先です。実際に、指先の細かな動きを求められる職人さんや料理人は、高齢になっても〝現役バリバリ〟という人が少なくありません。もっとも、今から本物の職人や料理人を目指すのは難しいでしょうから、指先を使う折り紙あたりから始めてみてはいかがでしょうか。
「いい歳をして折り紙なんか......」と思わないでください。折り紙は、指先を駆使して平面の紙で立体的な作品を作り上げると同時に、色しき彩さいの感覚も研とぎ澄まされるという、脳の活性化にはうってつけの作業です。だからこそ、多くのリハビリテーション施設や、介護施設でも折り紙が取り入れられているのでしょう。
また、バスや電車での移動中は読書もけっこうですが、ケータイやスマホからメールを打つのもいいかもしれません。
見にくいとか打ちにくいとか、シニアには敬遠されがちですが、実はその困難が脳を刺激することにつながります。最初は、子どもや孫、友人に短いメールを打つだけでもいいのです。
手先を使うことといえば、料理を作るのも効果があります。
まず、「何を作ろうか?」と考えるのが脳にとっては刺激になります。作るものが決まったら、包丁やピーラー(皮むき器)などの道具を使いますから、取り扱いに気をつけることが必要で、それは適度な緊張感と言えるでしょう。
できあがった料理を皿に盛りつけるときには、美的センスを発揮し、そして、並んだ料理を味わうときには、箸やフォークを使って、神経細胞が集中している唇や舌も動員します。
料理は、最初から最後まで"脳が刺激される"とあって、シニアの趣味としてもいいこと尽くめと言えそうですね。