女優の森光子さんは90歳近くまで舞台に上がり続けましたが、何十年も風邪一つひかなかったそうです。その健康の秘訣として知られるのは、毎日欠かさず塩水で鼻うがいをし、高齢になってからも、スクワットを何十回もしていたこと。さすがですね。
さまざまな世界で長く活躍されている方たちは、皆さん、健康に対する意識が高く、それぞれ努力をされています。もちろん、現役で仕事をされている責任感もあると思いますが、「何歳になっても健康で過ごしたい」と願うのは誰でも一緒です。
では、健康で、病院や薬の世話にならない生活を送るためには、どうしたらいいのか? 実はそのほとんどが、それほど難しいものではなく、日常の小さな改善の積み重ねにあります。
本稿では、日常の中でちょっとした心がけで脳を活性化させる方法「60%主義」「隣の芝生に惑わされない」について精神科医の保坂隆さんに解説して頂く。
※本稿は、保坂隆著『精神科医が教える 心と体の「老後のイキイキ健康術」』(PHP文庫)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「60%主義」でいい──体と心のジレンマに悩まないように
「真面目に生きてきた人ほど、歳をとってから、理想と現実に悩むことが多い」というのを知っていますか?
本人は若いつもりでいるのですが、ちょっと前まで簡単にできたことが難しくなるなど、体力や気力の衰えを感じると、自らの"老い"にショックを受けて悩んだり、元気がなくなるのです。
階段の昇のぼり降りに手すりを使う、電車で何とか座席に座ろうとする、つい出不精になる......。気がつくと、老いの兆候に愕然とするかもしれません。
そのほかにも、よく物を失くす、人の名前が出てこない、ぐっすり眠れなくなるなどの現象があるでしょう。こうした老化現象は避けて通れないもので、嫌でも訪れる生理学的な変化です。
そこで、多くの人は「自然の流れ」だと認識して、老化を受け入れていくようです。でも、それを認めることができず、自分をよりいっそう苦しめてしまう人もいます。「若い人には負けない」「今でも、昔と変わらない」と頑張ってみるのですが、体の衰えは否定できません。
「いつまでも同じように活躍し続けたい」と望むのもわかりますが、その気持ちがあまりに強いと、体とのジレンマに陥って、心が疲れてしまうでしょう。
「何でも100%やり遂げよう」という完璧主義は捨てるべきです。そして、60%の力で、余裕をもって物事に取り組む方針に変えてはどうでしょう。
できないことはさっぱりとあきらめ、できる範囲で最良の選択をすればいいのではないでしょうか。
「若いときの60%もできれば十分」
そう考えて、自分の能力と折り合いをつけることで、余計なイライラは吹き飛ばし、今を生きることに徹したいものです。
「隣の芝生」に惑わされない──他人の人生がよく見える?
「お隣の○○くんは、学年で一番の成績なんですって。それにひきかえあなたは......」
「お兄ちゃんみたいに、なぜできないの? お母さん、ガッカリしちゃうわ」
子どもの頃、誰でも一度くらいはこんなふうに、誰かと比べられて嫌な思いをしたのではないでしょうか。嫌な思いというよりも、傷ついたと言ったほうが正しいかもしれません。
子どもの頃は「なんで、人と比べられなくちゃいけないんだろう?」と、強い不満や嫌悪を感じたでしょう。ところが大人になってから、とくに結婚してからは夫や妻に、また、自分の子どもが生まれると子どもに対して、気がつくと同じことをしていたりするのです。
お隣の△△さんは大企業に勤めていたので、年金がたっぷりもらえ、ゆとりのある生活を送っているらしい。それにひきかえ私は......」
「○○さんのご主人は古希(70歳)を過ぎてもこざっぱりしているのに、うちのダンナときたら、まるでボロ雑巾。なんで、こんな男と結婚してしまったのかしら?」
こんな発言に、心当たりがあるのではないでしょうか。
しかし、昔から「隣の芝生は青い」と言うように、他人のことはよく見えるものです。
もしかしたら、裕福そうなお隣の△△さんには、同時に多額の借金があるかもしれませんし、○○さんのご主人は浮気者で、奥さんは若い頃にさんざん泣かされていたかもしれません。
それぞれの家の「恥の部分」は、滅多に表れるものではありませんから、外から見ると"いいところ"ばかりが際立ってしまうのです。
もしも、あなたが「私は不幸だ」とか「不運な人生を送ってきた」と思っていたとしても、とりあえず今まで生きてこられたわけですし、現に、今も生きているではありませんか。
さまざまな事件や事故が起こる今の世の中を考えれば、大過なく生きているだけで幸せなのかもしれませんね。そう思えれば、他人と自分の人生を比べて落ち込むのは無意味だと気がつくはずです。
たしかに、「あんな人になりたい」という憧れや願望をきっかけにして努力するのは、人生にとってプラスになります。しかし、「あんな人になりたかった」という過去形の考え方は、後ろ向きでネガティブな感情と言えます。
さらに、自分を責める気持ちや、他人をうらやむ心は大きなストレスになり、当然、脳の働きが悪化し、記憶力の衰えなどにもつながります。
「人は悲しいから泣くのではない。泣くから哀しいのだ」という言葉もあります。その反対に、「自分は幸福だ」「今日もいいことがあった」というポジティブな気持ちで暮らせば、脳はどんどん活性化していくのです。