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国民1人あたり1000円徴収されている「森林環境税」 自治体はどう使っている?

古川大輔(株式会社古川ちいきの総合研究所代表取締役)

2025年10月24日 公開

豊かな森に囲まれた日本は、古くから木と共に生きてきた国です。この森林資源を守り続けるため、現在すべての国民に「森林環境税」として一人当たり年1000円が課されています。では、その税金は実際にどのように使われているのでしょうか。本稿では、書籍『森林ビジネス』より、自治体ごとの取り組みについて解説します。

※本稿は古川大輔著『森林ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)より一部を抜粋編集したものです。

 

国民1人あたり1000円 「森林環境税」

みなさんは、ご自身が「森林環境税」を支払っているのをご存じでしょうか?

「森林環境税」は、2024年度から導入された国税で、国内に住所のある個人に対して課税されています。個人の住民税均等割と合わせて、1人あたり年額1000円が徴収されています。私は講演会で全国を回ることがあるのですが、この「森林環境税」の話をすると決まってこう言われます。

「知らない......」

ニュースで取り上げられていたものの、知らない方が多い理由は、主に2つあると考えられます。

1つは、勤め先で天引きされるため、認識されにくいこと。会社に届く支払い調書には、「森林環境税」の記載がありますが、「市民税」「県民税」と合算して、会社が代行して天引きするため、認識されにくいのかもしれません。

また、2014年より、住民税に1000円の復興特別税(東日本大震災の復興のため)が上乗せされていましたが、2024年からはこれと入れ替わるかたちで、同額の森林環境税が徴収されるようになりました。そのため、気づかなかったという方も多いでしょう。

納税者の視点では「森林環境税」と言いますが、それを国が集め、地方自治体に譲与するので、地方自治体側から見ると「『森林環境譲与税』を活用して事業を行う」という言い方になります。その配分は一定の計算式(①人口、②私有林人工林面積、③林業従事者数による重みづけ)によって配分されます。

国民からの徴収より5年先んじて、前払い的に2019年から譲与をさており、2024年度で総額600億円ほどになるよう段階的に増やし、各自治体に振り分けられています。

2022年度の「森林環境譲与税」(総額500億円)は、上位の市区町村から、横浜市(4億396万円)、浜松市(3億2571万円)、大阪市(3億1062万円)、田辺市(2億8736万円)、京都市(2億2525万円)となりました。1億円以上の市区町村が62ある一方、100万円に満たない市町村も64あります。

世田谷区、盛岡市、北秋田市が同じ1億円程となっており、計算によると都市部も山林が多い地域も同額ほどになることもあり、どの分野にどう使うか、確かに使い方に悩む自治体もあるのが実態です。

「森林環境税」の目的は、世界に誇れる美しい森林環境を保持し、気候変動抑制の国際的な協定「パリ協定」で定めた目標を達成するためです。地方財源の確保によって、山林災害を防ぎ、持続可能な森林管理を行うための税金です。

具体的には、①間伐などの森林整備関係、②人材の育成・担い手の確保、③木材利用・普及啓発などに使われます。しかし利用の自由度は高く、森林環境税を使って自治体で独自の「森林ビジョン」等を策定し、その基本理念に基づいて、地域の事業者と官民一体となった森林・林業施策を実施する事例も増えています。

 

地方創生の政策的な文脈も踏まえた魅力的な施策

確かに、「使い方」がわからないという自治体も少なくありません。しかし「使い方」よりも「在り方」が大事と捉え、将来の森林づくりに対するビジョンをもとに、地方創生の政策的な文脈も踏まえて魅力的な施策を行う先進的な事例もあります。

森林環境税導入前に策定している浜松市、豊田市、相模原市等モデルとなるビジョンが先行にありますが、高知県本山町「土佐本山コンパクトフォレスト構想」、徳島県三好市「三好市森づくり基本計画-千年のかくれんぼの森構想-」、兵庫県佐用町「佐用町森林ビジョン さよう、な森。べっちょない!」、高知県安芸市「安芸市流域森づくり構想」、 千葉県山武市「山武市森づくりマスタープラン」などは、譲与後の策定ビジョンで、地域の実情に合わせたオリジナリティを持つ施策を生み出しています。

「森林環境税」の活用には、足元の森林を見ていくリアリティが欠かせません。

これは、ある山村地域の役所の方のお話です。

「この町は、森林環境税として1億円を譲与されています。1人1000円なので、10万人分の税金です。町の住民は2万人。その人口の5倍ほどの納税者からいただいた税金であり、その負託に応えるべく、森林への想いを果たさねばなりません」

使命感を持った自治体の方々は、地域住民と合意形成を行いながら、独自のビジョンに基づき積極的に事業を展開しています。兵庫県佐用町は2022年度から、高齢化や過疎化などにより森林所有者自らが管理できない山林を、森林環境譲与税を使って購入。町有林(公有林)化することによって、行政が一括管理を行い、将来に向けた森林のゾーニング(選択と集中)を行っています。

また、ジャパンインベストメントアドバイザーと東京農工大学の支援のもと、高性能林業機械の導入や、早生樹(ユーカリ)の短伐期施業による森林再生を模索。一部の住民による生態系の保全運動がメディアで取り上げられることもありましたが、森林ビジョンに則り、地域での対話を重ね、各種の施策を展開しています。

地元では、勉強会が重ねられており、将来の不安要素(負の遺産)を増やさず、安心して暮らせる住民の福祉の向上のために動いています。

独自のビジョンを掲げ、行政と企業、起業家、森林クレジット、生物多様性、AI、森林DX化などにチャレンジしながら、ローカルで持続可能な新しい森林ビジネスが広がることを期待したいものです。

「地方分権の時代がきた」と言われてから、もうずいぶん経ちました。時代遅れとも言える従来の法律や慣例の縛りにより、自由度の限界も感じます。地方がより活動しやすい環境を国が整えていくことで、 地方はその独自性により、自由度が高い施策を住民や地域企業、教育機関などの協力者とともにつくることができるのです。

 

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