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収益源は保険料だけではなかった! 保険会社がやっている儲けのしくみ

植村信保(福岡大学商学部教授/キャピタスコンサルティング・マネージングディレクター〈非常勤〉)

2025年10月31日 公開

生涯にわたり、少なくない金額を支払うにもかかわらず、意外と知られていない「保険」の世界。保険会社もビジネスとして継続していくには、収益を上げることが求められます。では保険会社はどのようにして儲けを出しているのでしょうか。

※本稿は、植村信保著『保険ビジネス 契約者から専門家まで楽しく読める保険の教養』(クロスメディア・パブリッシング)より一部抜粋・編集したものです。

 

銀行は利ざやが主な収益減だが...

日本の保険会社は、相互会社形態の生保5社を除き、株式会社です。株式会社は営利を目的とした組織なので、儲けなければなりません。相互会社は営利を目的とした組織ではありませんが、社員(契約者)に剰余を還元し、実質的な保険料を下げるような経営が求められています。

それでは、保険会社の収益構造はどうなっているのでしょうか。

収益源の1つは利ざやです。保険会社は加入者から保険料を受け取り、将来の保険金支払いに備えて責任準備金を積み立てていますが、その資金を有価証券に投資したり、企業などに貸し出したりしています。

その一方で、保険会社は長期契約の場合、金利(予定利率)で割り引くことで、保険料を安く設定していて、責任準備金も同じように予定利率を使って計算しています。

したがって、資産運用収益が予定利率に伴う費用を上回れば利ざやを得ることができますし、下回れば逆ざやとして損益を圧迫します(利差損益と言います)。

短期契約が中心の損害保険会社では、予定利率の負担がほとんどないので、資産運用収益がそのまま収益となります。

ただし、保険会社の収益源はこれだけではありません。生命保険や医療保険では保険料に安全割増を加味して計算しているうえ、リスク・プーリング(同じようなリスクを持つ加入者を大量に集めることで不確実性を減らし、発生率や死亡率の安定を図ること)などによって発生率の安定を図り、さらには各種の保険を組み合わせたリスク分散の効果などから、収益を確保しています(死差損益、危険差益・差損などと言います)。

損害保険では安全割増を採用していませんが、特に企業向け保険では、リスクに見合った保険料を設定することで収益を確保するのが基本です。

もう1つの収益源は「付加保険料」です。保険料には将来の保険金支払いにあてる部分のほか、事業運営の経費を賄う部分(付加保険料)もあって、実際にかかった人件費や物件費、代理店手数料などが付加保険料を下回れば、これも保険会社の収益となります(費差損益と言います)。

利ざやが主な収益源となっている銀行に比べると、保険会社には利ざやだけではなく、死差益・危険差益や費差益といった収益源があるのが特徴です。

 

保険会社が抱えているリスクは多い

収益のあるところには必ずリスクもあります。保険会社にとって重要な経営リスクとしては、「保険引受リスク」「市場リスク・信用リスク」「金利リスク」が挙げられます。

保険引受リスクは発生率や死亡率が期待値から外れてしまい、損失を被るリスクです。特に損害保険会社には自然災害リスクなど、毎年は発生しないものの、発生すると多額の保険金を支払うことになるリスクもあり、生命保険や医療保険、自動車保険に比べると、収益がブレやすくなっています。

ですから損害保険会社の場合、単年度の損益だけを見て収益力を評価することはできないのですが、他方で1年契約が中心なので、損益計算書の収入保険料と支払保険金を比べることで、大まかな保険収支をつかむことができます(損害率と言います)。

市場リスクは保有する有価証券の価格変動により損失を被るリスク。信用リスクは貸出先の経営状態が悪化し、貸出利息や元本を回収できなくなるリスクです。いずれも資産運用収益を左右するリスクと言えます。

市場リスクとは別に、わざわざ「金利リスク」が重要だとしているのは、このリスクは資産だけではなく、資産と負債の期間ミスマッチに伴うリスクだからです。

 

金利が上下することで何が起きるか

保険会社が利ざやを確保するには、契約期間全体として予定利率を上回る資産運用収益が必要です。では、実際は金利が上下することでどうなったのでしょうか。

もし、資産と負債の期間をマッチングしているのであれば、会計上の表示はともかくとして、経済的には金利が上がっても下がっても、保険会社の経営には影響がありません。

しかし、日本の多くの生命保険会社では、現在でも負債のほうが資産よりも残存期間が長いミスマッチ状態となっています。生保は残存10年を超える超長期国債を大量に保有しているものの、予定利率を保証している期間はさらに長いことが多いのです。

1980年代までに獲得した契約の予定利率は5%以上でした。当時の生保では資産と負債のマッチングを図るという考えはほとんどなく、かつ、マッチングを図ろうとしてもいまのような超長期国債もなかったので、90年代の金利低下とともに資産運用利回りも下がり、いわゆる逆ざやが深刻な問題となりました。

2000年前後に中堅生保の経営破綻が相次いだのは、「市場リスク・信用リスク」管理の失敗(ハイリスクの投融資が裏目に出て、多額の損失を抱えた)に加え、金利低下によって高利率契約が経営の重荷となったこと、つまり、大きな「金利リスク」を抱えていたことも一因です。

反対に、金利が上がると保有している超長期債の価格が下がるので、会計上は経営が悪化したように見えますが、利率保証の負担は軽くなります。生保経営を見るには資産だけではなく、負債もあわせて見る必要があるのです。

著者紹介

植村信保(うえむら・のぶやす)

福岡大学商学部教授/キャピタスコンサルティング・マネージングディレクター(非常勤)

大手損害保険会社、格付会社アナリスト、金融庁(任期付職員)などを経て、2020年から福岡大学で「保険論」「リスクマネジメント論」を担当。専門は保険会社のリスク管理、健全性規制など。主な著書は『経営なき破綻 平成生保危機の真実』(日本経済新聞出版社、2008年)、『利用者と提供者の視点で学ぶ保険の教科書』(中央経済社、2021年)など多数。
個人ブログ https://nuemura.com/

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