せっかく内定をつかんでも、入社してみたら思わぬ"ブラック企業"だった――。
そんな失敗を防ぐには、転職前に企業の本質を見抜く力を身につけることが欠かせません。では、どんな点に注意すればいいのでしょうか。転職定着マイスター・川野智己さんの解説を、書籍『転職に向いてない人がそれでも転職に成功する思考法』より紹介します。
※本稿は、川野智己著『転職に向いてない人がそれでも転職に成功する思考法』(東洋経済新報社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「ブラック企業」を見破る眼
私は長年にわたり、転職後の定着と活躍を支援する中で、多くの転職者から「以前のブラック企業から何とか逃れてきました」「新しい転職先を選ぶ上で最も重視したのは、二度とブラック企業を選ばないことです」といった切実な声を聞いてきました。
一度「ブラック企業」に入社してしまうと、あなたの貴重な経歴に傷がつくだけでなく、心身の健康を害し、最悪の場合、二度と働くことができなくなってしまう可能性すらあります。
ここで言う「ブラック企業」とは、一般的に、過重労働やハラスメントが横行し従業員を心身ともに疲弊させたり、個々の従業員の個性や裁量を否定し強圧的なマネジメント(いわゆる体育会系的な企業文化)で従属させたりする企業を指すと考えてください。
巷では、「求人票に『わが社はアットホームな社風です』と書いてあれば、逆にブラック企業に違いない」といった、根拠のない都市伝説も蔓延していますが、そのような噂に流されることなく、自分自身の目でたしかめることが重要です。
ここでは、事前に「ブラック企業」の可能性を見抜くための、より具体的で信頼性の高い方法をいくつかご紹介します。これらの見分け方を身につけることは、「転職に向いていない人の特徴③楽観的すぎる人」が安易な選択を避けたり、「転職に向いていない人の特徴⑦お人好しさん」が悪質な企業に利用されたりするのを防ぐ上で非常に大切です。
・労働基準関係法令違反の公表事案を確認する
各都道府県の労働局が、労働基準関係法令に違反した企業名を公表している場合があります。厚生労働省のウェブサイトなどから確認してみましょう。
・過去の労働関連訴訟を調べる
過去に労働問題で訴訟を起こされたり、敗訴したりしていないか、具体的な企業名で検索してみることができます。たとえば、公益社団法人全国労働基準関係団体連合会のウェブサイトや、国立国会図書館の判例検索サービスなどが参考になります。
・企業の口コミサイトを多角的にチェックする
「転職会議」や「OpenWork」といった企業の口コミサイトは、投稿母数が増えたことで、企業の一定の傾向値を把握する上で参考になります。特に「入社後に感じたギャップ」といった項目は、リアルな情報が含まれている可能性があります。
ただし、基本的には退職者や不満を持つ社員が投稿しやすい傾向があるため、過度にネガティブな内容は割り引いて受け取る冷静さも必要です。
一方で、既存社員による肯定的な投稿が「サクラ(企業側の意図的な書き込み)」ではないかという指摘もあります。たしかにそのような側面も否定できませんが、中には求職者の明らかな誤解を解くために、誠実に情報を発信しているケースもありますので、すべての肯定的な投稿を「やらせ」と断じるのは早計です。複数の情報を照らし合わせ、総合的に判断しましょう。
・ウェブ検索でネガティブ情報を探る
「企業名+訴訟」「企業名+トラブル」「企業名+行政指導」「企業名+摘発」といったキーワードで検索してみるのも有効です。過去の不祥事や問題がニュース記事などとして残っている場合があります。
・ビジネスSNSなどを通じて業界の評判を聞く
SNSをうまく活用すれば、同じ業界に勤務する人から、企業の評判や内情について情報を得ることも有用です。ただし、その際には、くれぐれも応募を検討している企業に現在勤務している人に直接コンタクトを取るのは避けましょう。情報が曲解されて採用担当者に伝わり、不利益を被る可能性があります。
・転職エージェントから情報を引き出す
信頼できる転職エージェントであれば、企業のネガティブな情報(ブラック企業リストのようなもの)を独自に持っている場合があります。ただし、これは非常にデリケートな情報なので、聞き出し方には工夫が必要です。これについては、後の章で詳しく説明します。
以上のように、多角的かつ客観的な情報収集を行うことで、「ブラック企業」に足を踏み入れてしまうリスクを大幅に減らすことができます。情報源を偏らせないことが重要です。
転職を失敗に終わらせないために、そして何よりもあなた自身を守るために、求人情報や企業情報を丹念に読み解き、その実態を見抜く力を身につけることが、成功へのたしかな近道となるのです。これらの求人企業や業界の研究に役立つ情報源については、図表4にまとめていますので、参考にしてください。