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役職定年は“想像以上のショック”がある...日本企業特有の中高年への厳しさ

小林祐児(パーソル総合研究所主席研究員 執行役員 シンクタンク本部長)

2025年12月15日 公開

今、管理職として働くということが、「罰ゲーム」と化してきていると言われています。

あまり気が付かれていませんが、この管理職の「罰ゲーム化」には、放置すると負荷が上がり続ける、まるでインフレ・スパイラルのような構造が存在します。ここ10年ほどで現れたハラスメント防止法、働き方改革、テレワークの普及など、新しいトレンドの多くが、管理職の負荷を増やし続けているのです。

本稿では、労働・組織・雇用に詳しいパーソル総合研究所主席研究員 執行役員 シンクタンク本部長の小林祐児さんに、日本の管理職の「出口」「降り方」の特殊性について解説して頂きます。

※本稿は、小林祐児著『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)より内容を一部抜粋・編集したものです

 

役職定年とは何か

「出口」の特徴の一つは、日本で大手企業を中心に敷かれている「役職定年」という制度です。役職定年制度は「ポストオフ制度」とも呼ばれ、企業や公的機関において、役職に定年を設ける制度のことです。課長や部長といった役職を、55歳や57歳など、一定の年齢に達した時点で降りることになります。

個人の実力や成果、個別事情ではなく、「年齢」という一律の基準でポストから外すこの制度は、欧米的な人権感覚ではそもそも受け入れられにくいものでもあります。ですが、大手企業へのヒアリングを行ったパーソル総合研究所の調査によれば、現在、役職定年制度がある企業が57%で、これから廃止予定は13%の一方、新設した会社も13%あり、横ばい傾向が続いています(上図)。

日本企業が役職定年制をとり続ける狙いの一つは、組織の若返りです。役職が空き、新しい人材が昇進してくることで、組織の活性化や新陳代謝が促進されます。

一方で、長年管理職としてやってきた当人にとっては、役職定年によってポストを外れるのはハードな体験になります。年齢という実力とは関係の無い基準で降ろされるというのは、理不尽にも感じられますし、仕事へのモチベーションも上がりにくくなります。筆者が法政大学の石山恒貴教授らと調査したところ、想像以上のショックがあることが確認されました。

「あまりに理不尽で、やる気がまったく出なくなった」
「頭では理解していたが、実際の変化(収入・環境・業務)は想定より大きい」
「同期でトップ出世を果たしてきたのに、なぜいきなり役職をはく奪されるのか。疑問と喪失感で夜も眠れない日が続いた」
「会社っていったい何だったのか」

こうしたショックの大きさを感じさせる生々しい声が聞かれました。一律ポストオフが生むこうした心理的ショックは、もともとの部下の人数が多かった人のほうが大きいことがわかっています。

 

「例外運用」が「事前準備」しないシニアを生む

役職定年に対して事前にきちんと準備できていればいいのですが、多くの50代はそうした準備をあまりしていません。役職定年について事前に説明されても、直前にしか説明がなくても、準備する人はほとんど増えないことがわかっています。

つまり「前もってわかっていても、役職定年後の準備をしない」ということです。役職定年は一律の年齢によってなされますので、多くの人が事前準備をしないのは、一見して不思議なことです。

この謎は、この制度の運用実態を見ると解くことができます。パーソル総合研究所が行った先述の調査によると、役職定年の運用において、役職を降りる時期の「延長」があるとする企業がおよそ7割も存在しました。つまり、後任者がいなかったり、必要性がない部署の場合には、管理職であり続ける人がいるということです。

「一律年齢」の原則で運用されているはずの役職定年には、実際にはこうした「穴」があるということです。これは60歳や65歳で訪れる通常の定年制には見られない特徴です。

そうであるならば「自分の代わりはいない」と自信を持っている管理職ほど、「役職定年はあるが、なんだかんだ言っても自分は残れるだろう」と思ってしまうのも無理はありません。こうした表向きの制度と運用実態の間のズレが、「準備の無さ」やショックの大きさの背景に存在します。

 

コロナ禍で激増した早期退職

さらに近年はコロナ禍の影響もあり「50歳以上の管理職」などの条件で、管理職を狙い撃ちした「早期退職募集」が激増しました。早期退職募集とは、退職金割増や再就職支援などの優遇措置をつけながら、退職希望者を募る制度です。

ここでも、労働組合員ではなく、給与が高く、かつ自発的に外にでない高齢の管理職はしばしばターゲットになります。日本企業は、「解雇が厳しい、難しい」と言いながら、早期退職募集で中高年を計画的に退出させるということを「苦肉の策」として繰り返しています。

役職定年、定年制度、そして早期退職。こうした年齢を基準にした中高年層への人事施策も、そもそも年齢に対しての差別が禁止される欧米的な雇用慣行では認められないものです。

原則、解雇自由として知られるアメリカも、中高年層の雇用はかなり保護されます。「The Age Discrimination in Employment Act」(ADEA)は、40歳以上の従業員に対する年齢による差別を禁止しています。レイオフ(一時解雇・解雇調整)に際してもベテラン社員が優先的に守られる先任権という仕組みがあります。こうした海外の雇用と対比すると、この「中高年への厳しさ」もまた、日本の管理職の「出口」の特殊さを表しています。

著者紹介

小林祐児(こばやし・ゆうじ)

パーソル総合研究所主席研究員 執行役員 シンクタンク本部長

上智大学大学院総合人間科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。NHK放送文化研究所、総合マーケティングリサーチファームを経て現職。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行っている。単著に『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎新書)、『リスキリングは経営課題』(光文社新書)、共著に『残業学』(光文社新書)、『働くみんなの必修講義 転職学』(KADOKAWA)など多数。

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