ひとりの時間を心地よく感じる人もいれば、苦手に思う人もいます。過ごし方やとらえ方は人それぞれですが、常に誰かと一緒に過ごしていると、依存的に見られたり、自分の気持ちと向き合う機会を失ったりすることもあります。本稿では心理学博士の榎本博明さんが、ひとりの時間が良好な人間関係を育む理由を解説。時間の使い方を見直すことで、人間関係は大きく変わっていきます。
※本稿は、『PHPスペシャル』2025年12月号より内容を抜粋・編集したものです。
「ひとりの時間」に対するイメージ
あなたはひとりの時間に、どのようなイメージをもっていますか。
「ひとりぼっち」とか「さみしい」といったイメージが、まず思い浮かぶという人もいるのではないでしょうか。ひとりでいることに対して、そのようにネガティブなイメージをもつ人は、できるだけ人と一緒にいたいと思い、仕事帰りに同僚と食事をしたり、週末に友達と会う約束をしたりして、ひとりの時間を極力減らそうと努力するものです。
一方、人と一緒にいると、あっという間に時が過ぎて楽しい時間が過ごせるけれども、常に誰かといると自分を見つめることが疎かになるので、ひとりでゆっくりする時間も大切にしているという人もいます。そのような人は、ひとりの時間に対して「自分と向き合える」とか、「日頃の生活を振り返るきっかけになる」など、ポジティブなイメージをもっているのでしょう。
「ひとり」でいることで、得られる気づき
このように、ひとりの時間のとらえ方は人によって違いますが、それぞれに「なるほど」と思える視点があります。
一緒に食事をしながらおしゃべりできる同僚や友達がいるのは幸せなことですし、日頃のストレス発散にもなるはずです。でも、絶えず誰かと過ごしていると、じっくり物事を考えたり自分を振り返ったりすることができません。
「みんなと一緒にいると楽しいけれど、どこか無理をしている気がする」「最近ちょっと疲れているかも」「このところ何だかイライラすることが多いのは、どうしてだろう」「いつの間にか、自分が望むような生活から逸れてきているかもしれない」などといった気づきが得られにくくなります。
ゆえに、人と一緒に過ごす時間をもちつつも、ひとりの時間も疎かにしないようにしたいものです。
次の項から、ひとりの時間を苦手に思う人と、そうでない人の心理をひもといていくので、自分が今、ひとりの時間をどのようにとらえているか考えてみてください。
ひとりが苦手な人の心理
不安や恐怖心にとらわれやすく、自分との対話が苦手で、気づかず無理を重ねやすいです。
①誰かとつながっていないと不安
ひとりの時間が苦手な人は、人とつながっていないと不安になります。「今、ここに、ひとりでいる」といった感覚に陥ると不安になるので、そうなるのを避けるために、家にひとりでいるときもスマートフォンを手放せません。
人とのつながりを維持しようとして、友達とSNSでメッセージのやり取りをしたり、テレビのバラエティー番組を観てみんなと一緒にいる感覚に浸ったりして、人とつながっている感覚を維持しようとします。
②人から嫌われたくない
みんなといるほうが安心するという人は、人から嫌われることを恐れる傾向があります。嫌われると一緒にいられなくなるからです。
ただ、誰かと一緒にいれば多少なりとも気をつかわなければならず、人から嫌われたくないという思いが強い人は、かなり無理をして人に合わせ、気をつかいすぎて疲れるということになりがちです。ゆえに、本人は意識していないことが多いですが、けっこうストレスを溜め込んでいるものです。
③自分と向き合うのが怖い
人と一緒にいれば、自分を振り返ったりせずに、ひたすら楽しいことをしゃべったりして過ごせます。でも、ひとりでいる時間には、さまざまなことが頭に浮かんできます。
日頃の自分を振り返って、「こんなことでいいんだろうか」と自己嫌悪に陥ったり、将来に対する不安に苛まれたりすることもあるでしょう。そうかといって生活を変える覚悟もなく、どうしたらよいかわからないため、自分の現状から目をそむけたくなるのです。
<一緒にいたがる人に困ったら>
いつも誰かといたい人は、お昼も一緒に食べようとし、帰りも一緒に帰りたがって、それが毎日だとさすがに疲れます。しかも、あまりに依存的で、こちらの都合や気持ちを察することなく一緒にいられると、イライラすることもあるでしょう。
そんなときは無理をせずに、「今日はひとりでじっくり考えたいことがあるから」「今日は人と会う約束があるから」などと、断る勇気をもつことも必要です。良好な関係を維持するためにも、無理のしすぎは禁物です。
ひとりを楽しめる人の心理
自分をしっかりと見つめて自分と他人との境界線を守り、本当の意味でのつながりを大切にします。
①自分らしさを大事にしたい
どんな生活をしていても、何か物足りなさを感じたり、ちょっと疲れを感じたりすることはあるものです。
ひとりでいるといろいろなことが頭に浮かんできて、自分が何を物足りなく感じているのか、何に疲れているのか、何にイラついているのか、自分はどうしたいのかなどといったことをめぐって、自分との対話が始まります。自分らしく生きたいという思いが強い人は、そのような自分との対話を大切にします。
②社交より親交のほうが大切
絶えず人といないと不安だという人は、人づきあいで気を紛らしているところがありますが、人との深い交わりを求める人は、そうした上辺のつきあいには虚しさを感じます。どうでもいいことを話して楽しむ相手がたくさんいるよりも、本当に気になることを遠慮なく話せる少数の相手がほしい、つまり社交より親交がほしいのです。
親交を得るには、しっかり自分を見つめて深い話もできるようにしておく必要があります。
③親しくても他人と自分は違う
わかってもらえると思って話したのに相手から思いがけない反応があり、結局、親しい仲であってもなかなかわかり合えないのだと思い知らされることがあります。人はそんな経験を通し、自分は誰とも異なる独自の存在だという思いを強めていくのです。それを「個別性の自覚」と言います。
個別性に気づいている人は、他人に依存することなく、ひとりの時間に趣味に浸ったり、思索を深めたりして、自分の世界を豊かに耕していけます。
<協調性のない人に困ったら>
ひとりの時間が大切だと言っても、私たちは人との関わりの中で生きています。時には、人に合わせることも必要です。
ところが、人にまったく合わせない人もいます。そのような人の姿勢を変えようとしても無駄でしょう。それは、その人の価値観によるものだからです。「合わせてくれるはず」といった期待をもてば、期待を裏切られてイライラするだけです。そういう人なのだということを踏まえて、適度に距離を置いてつきあうのがよいでしょう。
「自分の世界」をもてば親しいつきあいができる
人間的な魅力を高めるためにも、ひとりの時間を楽しめる人になりましょう。
ひとりでいるのが苦手で、絶えず誰かと一緒でないと不安な人。いつも仲間と群れている人。そのような人は、自分にはコミュニケーション能力があって好かれているから、みんなとつながれていると思っているかもしれません。しかし、周囲からは深く関わりたくない不安定な人と見られがちです。
いつも群れてばかりで自分の世界をもっていない。そのことも魅力を感じさせない要因のひとつと言えます。ひとりでいるのが不安でこちらに依存してくる人といると鬱陶しく感じ、距離を置きたくなるものです。
一方、ひとりの時間を楽しめる人は、趣味に没頭したり、読書に浸ったり、好きな勉強をしたりして、自分ひとりの時間を充実させることができます。そのように自分の世界をもっている人は気持ちに余裕があり、それがまた魅力にもなります。一緒にいても、こちらに寄りかかってくるような圧迫感がなく、適度な距離感を保ってくれるため、ごく自然につきあえるのです。
必要なのは「安定感」
人が安心してつきあえ、積極的に関わりたいと思える相手は、自分の世界をもっている人です。自分の世界をもっている人には安定感があります。何か没頭できる趣味やひとりで気晴らしができるような楽しみをもつことができれば、ゆったりとした安定感が出てきて、それが周囲の人に対する魅力にもなります。
ひとりでいることができない人は、その不安定さゆえに人から警戒されやすく、依存性が強くて個としての魅力を感じられないため、親しい関係をなかなか築けません。親密な相手がほしいのにできないという人は、まずはひとりで楽しめる手段をもつようにしましょう。ひとりで充実した時間を過ごせるようになれば、安定感が漂うようになり、周囲にも魅力的に映るようになるでしょう。