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「昨日の晩ご飯が思い出せない」のは認知症の予兆? 脳神経外科医が解説

菅原道仁(脳神経外科医)

2026年03月06日 公開

実は脳には、記憶があいまいになりやすく、忘れやすいという特性があると、脳神経外科医の菅原道仁さんは解説します。

あまりにも物忘れが増えると、認知症ではないかと不安になる人もいるでしょう。では、単なる物忘れと認知症の違いは、どこにあるのでしょうか。

本稿では、菅原道仁さんの著書『ミニマル脳習慣』より、忘れやすい脳の仕組みと、認知症と診断される基準について紹介します。

※本稿は、菅原道仁著『ミニマル脳習慣』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

自分の忘れっぽさに「あれ?」と思ったら

あなたには、こんな経験がありませんか?

毎週火曜の朝にあるミーティングの存在を、すっかり忘れていて、あとで上司に小部屋で注意された。

有名人の名前がすぐに出てこず、「ほら、あの人だよ。最近、よく見る......」といったセリフが、つい口から出てくる。

家族に「そういえば、この前の日曜日って、なにしてたっけ?」と聞かれて、すぐに思い出せず、しばらく考えこんでしまった。

こんなふうに、自分の忘れっぽさや、すぐに言葉が出てこないことに「あれ?」と思って、不安になったことはないでしょうか?

 

どんどん忘れるように設計されている

脳は「超なまけもの」の臓器です。隙あらば、省エネですませたり、サボろうとしたりします。

加えて、脳は記憶するのが苦手で、忘れっぽいという特性があります。受けとった情報を、どんどん忘れるように、元から設計されているのです。

もし、ありとあらゆることを全部覚えていなければならないとしたら、脳の容量はすぐにいっぱいになってしまいます。

すぐに忘れるのも、脳の生存戦略の1つなのです。

 

「昔は記憶力がよかった」という誤解

そういわれても、「ちょっと前までは、うっかり忘れることなんてなかった」「昔は暗記するのが得意で、なんでも覚えられた」と思う人がいるかもしれません。

ここで少し、これまでの人生を振りかえってみましょう。

学生時代や20代前半のころ、忘れることとは、本当に無縁でしたか?

......どうでしょう?

おそらく、そんなことはないですよね。

学校に体操服を持っていくのを忘れたり、覚えたはずの漢字を試験中に思い出せなかったり、定期券を忘れてあせったりしたこともあったはず。それに、当時も、人の名前がなかなか出てこなくて「えーっと......」となったこともあったでしょう。

昔のことなので、それこそ忘れているだけ。程度の差はありますが、脳が忘れっぽいのは、別に今にはじまったことではないのです。

「そもそも、私たちの脳は、忘れるように設計されている」

「人間の脳の構造上、忘れるのは仕方のないこと」

ちょっと残念な事実かもしれませんが、これが脳の現実なのです。

 

認知症と判断される2つの条件

認知症とは、どういう状態か説明できるでしょうか?

簡単にお伝えすると、「①認知機能が低下して、②日常生活に支障が出てきた状態」のことです。認知機能というのは、物事を理解したり、記憶したり、思考したり、といった脳の働き全般のことだと考えてください。

2つの条件があることからわかるように、たとえ認知機能が落ちても、日常生活に支障が出ていなければ、認知症と診断されません。少しくらい物忘れがあっても、問題なく生活できているのなら、認知症ではないのです。

たとえば、生まれ育った町で、いろいろなことに時間がかかりながらも、マイペースに生活している一人暮らしの人がいるとします。その時点で、認知症と診断されることは、まずありません。

ですが、その人が、都会に住む子どもに呼ばれて同居をはじめたあとに、バスや電車の乗り方が難しくて迷ったり、お店で代金を払う方法がわからなくて立ち往生したり、といった困りごとが増えた場合は、「②日常生活に支障が出てきた状態」となって、認知症と診断される可能性があります。

このように、同じ程度の脳の変化でも、環境によって「②日常生活に支障が出てきた状態」の度合いが変わり、それによって診断も変わってくるのです。「認知症かどうかの境目はグラデーション」だと考えてください。

 

昨日の晩ごはんが思い出せない......

ほかによくあるのが、「昨日の晩ごはんは、なんだったっけ?」と思い出せないときに、「これは認知症の予兆かも......」と不安になる人が多いことです。

このとき、家族に「昨日はカレーだったでしょ」といわれて、「ああ、そうだった」とすぐに思い出せるのなら、それは認知症ではありません。

認知症の場合は、「晩ごはんを食べたこと自体」を忘れてしまいます。新しい情報が記憶に残りにくくなっているためです。

つまり、脳のなかにある情報が「すぐ出てこない」のは単なるうっかり忘れ、「そもそもインプットされなくなる」のが認知症といえます。

 

深刻に考えると、脳の老化が早まる

なお、「うっかり忘れが多い人ほど、認知症になりやすい」といった傾向は特にないので安心してください。

私たちが気をつけたいのは、物忘れそのものよりも、「物忘れに対して、必要以上に不安を感じてしまうこと」です。

不安になるたびに強いストレスがかかると、ストレスに対処するためのホルモンであるコルチゾールがたくさん分泌されます。

コルチゾールは血液に運ばれて脳にも届き、記憶をつかさどる海馬などの部分に負担をかけると考えられています。こうした状態が長く続くと、脳の老化を早めるおそれがあるのです。

ちょっとした物忘れは、深刻に考えず、おおらかに構えるのが、いちばん。せっかくの今日という1日を楽しみましょう。

著者紹介

菅原道仁(すがわら・みちひと)

脳神経外科医

1970年、埼玉県生まれ。杏林大学医学部卒業後、国立国際医療研究センター、北原国際病院などに勤務。くも膜下出血や脳梗塞といった緊急の脳疾患を専門として、数多くの救急医療現場を経験する。2015年に菅原脳神経外科クリニック(東京都八王子市)、2019年に菅原クリニック東京脳ドック(東京都港区赤坂)を開院。「人生目標から考える医療」のスタイルを確立し、からだのことだけでなく、心や生き方もサポートする医療を行なう。著書に『すぐやる脳』『あの人を、脳から消す技術』(ともにサンマーク出版)などがある。

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