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バルセロナは全廃決定 日本でも進む“民泊規制強化”の行方

内藤英賢(合同会社Local Story代表)

2026年04月23日 公開

宿泊施設と聞いたら、何を思い浮かべるでしょうか?多くの方がホテルや旅館を思い浮かべるかもしれませんが、宿泊業界において急成長を遂げているのが「民泊」です。

インバウンドブームに火がついた2010年代に大きく市場を拡大した民泊――そんな民泊の光と影、そして未来について、観光業のコンサルティングおよびマーケティングに15年以上も携わる内藤英賢さんが解説します。

※本稿は、内藤英賢著『観光ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

民泊という新しい宿泊形態が日本を揺らす

現在新たに注目を浴びている宿泊形態の1つが「民泊」です。民泊とは簡単に言えば、住宅を宿泊者用に提供する形態ですが、この民泊が今、日本の宿泊業界を揺るがしています。まずは、日本における民泊の歴史から見ていきましょう。

民泊の現代史はインバウンドの増加と密接にかかわっています。2006年に観光立国推進基本法が制定され、国家として明確に観光を成長産業とすることが明示されました。その後、呼応するように2010年から中国や東南アジア各国にビザの要件を緩和し、これがインバウンドブームに火をつけることになりました。

それが証拠に2012年までは800万人前後で推移していた訪日外国人数が2013年から爆発的に増えていきます。

・2012年:836万人(2012年以前は800万人前後で推移)

・2013年:1036万人

・2014年:1341万人

・2015年:1974万人

とくに2014年〜2015年にかけて、「ホテル不足」「ホテル難民」という現象が、東京や京都などの観光都市で起こり始め、ニュースを記憶している方もいらっしゃるかと思います。そして、この時にホテル不足の受け皿として民泊が勃興し始めるのです。

当時はとくに法整備も追いついておらず、「Airbnb(エアビーアンドビー、以下エアビー)」という民泊の巨大プラットフォームに牽引される形で市場が拡大していきます。エアビーを利用した外国人宿泊者も加速度的に増えていきます。

・2014年:約20万人

・2015年:約130万人

そして、2017年にピークを迎えます。

・2017年:訪日外国人2869万人/エアビー利用者585万人

2014年からわずか3年で20倍以上にマーケットが拡大していることが分かります。そして、ここで日本民泊史に大きな転換点が起きます。それが住宅宿泊事業法(いわゆる「民泊新法」)です。これにより民泊の営業には、「届出」が必要となり、2018年6月に施行されます。

これは私自身も非常に良く記憶に残っていますが、本当にエアビーが届出のない民泊を登録から抹消したため、今度は「民泊難民」になった外国人の予約がホテルに一気に流れ込み、ホテル価格が高騰しました。

その後は、民泊新法に適応し、届出をした民泊が順調に増えていきますが、今度はコロナショックが襲い掛かります。海外ゲストは全くいなくなり、民泊は壊滅的なダメージを受けました。これもまた、日本民泊史に残る出来事でした。

コロナ後、インバウンドの戻りと共に、再び民泊市場も戻り始めて、今では3万5000軒(2025年9月時点)にまで回復をしています。コロナ収束期の2023年5月時点が1万9000軒なので、著しく増加していることが分かります。

そして、昨今よく話題に挙がる「特区」の存在があります。これは「民泊特区」においては民泊新法の180日ルールの適用外として、特区内のルールで運営することを許可するというもので、これまた特区内で様々な問題が噴出し、再び規制のフェーズに入っていると言えます。こうして見ると民泊の現代史は、ビジネスマインドによるダイナミズムによる発展と、加熱した市場を規制で制御するということの繰り返しだということが良く分かります。

ホテル1万3000軒、旅館3万8000軒、簡易宿所4万2000軒、民泊3万5000軒という今の日本の宿泊施設の軒数を見れば、いかに民泊がその存在感を増しているかがお分かりいただけるかと思います。

 

民泊の光と影

さて、民泊がいかに短時間で急成長したマーケットであるかということを見てきた訳ですが、ここでは民泊の生み出した光と影と今後について考察していきたいと思います。まずは民泊の光の部分です。

①誰でも簡単に宿泊ビジネスを可能にした

民泊の最大の特徴は手軽に宿泊ビジネスをスタートできるという点だと思います。今まで宿泊ビジネスを始めるのであれば、旅館業法に沿った申請と、多額の設備投資が必要なビジネスでした。

それが、民泊は「空き家」「一軒家の空いている部屋」「マンションの1室」から宿泊ビジネスをすることを可能にしました。それは多くのプレイヤーを宿泊業に呼び込み、宿泊業界を活性化させました。

②あふれる宿泊需要を提供する受け皿となった

また、急速に拡大するインバウンド需要を受け止める受け皿として、あるいは高騰する宿泊料金のストッパーとして、民泊は機能しました。やはり2014年当時で13平米のセミダブルが2万円や3万円で売れていく姿を見て、その異常性を感じていました。さすがに高すぎるなと。とくにファミリーやグループなどの大人数で泊まる際に一棟貸しがベースの民泊は強い味方です。

・ホテル旅館:1名2万円×4名=8万円

・民泊:一棟4万円÷4名=1万円 ※民泊のほうが明らかに安いケースもある

一方で民泊の光と影の「影」の部分です。

①近隣住民とのトラブル

よく話題にも上りますが、ゴミ出しのルールを守らない。スーツケースを捨てていく。あるいは夜中まで騒ぐなどの問題は昨今でもよく取り上げられます。とくに「家主不在型」の民泊タイプで起こりやすく、目が行き届かないので、野放図になりがちです。

②住宅価格の高騰

インバウンド客がよく訪れるエリアは、住宅用に貸し出すよりも民泊として運用する方が利回りがよいので、住宅用物件がなくなる、あるいは高騰するという現象が起きるというものです。

とくにヨーロッパではこの問題が先行して起こり、オランダのアムステルダムやスペインのバルセロナなどは、住宅価格が高騰し、住民が住めなくなるという状況に陥りました。これは今の日本でも起きており、今後さらに問題が激化していき、規制が厳しくなっていくと予想しております。

 

民泊の光と影から考える「民泊の未来」

さて、このように外的要因に、振り回されてきた民泊ですが、それでも多くの人や事業者がチャレンジするのは、それだけ魅力的な市場だからでしょう。180日ルールがあると言えども、空き家や空き室の1室を2万円で180日売れたとすると、360万円の収入になります。

サイドビジネスや副業として魅力的に映る理由も分からなくはないです。今後、民泊業界はどのようになっていくのでしょうか?予想してみたいと思います。

これから起こること①:規制強化

結論から言うと、先行するヨーロッパやアメリカのように規制が強くなることは免れないでしょう。東京や大阪で規制が厳しくなってきていますが、他の都市でも行き過ぎた民泊は規制の対象となりやすいので、大局観としては規制が厳しくなるという前提で見ておいた方がよいと思います。なお、先行する欧州では

・ロンドン:年90泊上限

・パリ:年120泊上限

・アムステルダム:年30泊

・バルセロナ:2028年までに全廃

と、180日ルールもまた絶対的ではないことも念頭に入れる必要があります。

これから起こること②:プロ民泊事業者の増加

そして、プロ民泊事業者が増えることになると思います。どんな産業でもそうですが、最初のグレーの間は有象無象のプレイヤーが入ってカオス状態になります。やがて法整備が整い、一定の産業に育つと、大資本がやってくるという流れです。プロ民泊事業者は「テクノロジー投資」「好立地物件の取得」を駆使して、市場のシェアを高めていくことになるでしょう。

こうなると、とくに「家主不在型」で運営していた民泊ホストはかなり厳しくなることが想定されます。家主不在であれば、差別化要素は「立地」「ハード」「価格」になるケースがほとんどですので、大資本でない限りはハードにかけられるコストは限られているので、「立地」の目利きが相当に必要になると想定されます。しっかりと自分の目で物件を確認して「宿泊ビジネス」としての目利きが重要になります。

これから起こること③:ホスト型民泊は強い

一方で、「家主在住型」自らホストとなり、ゲストを迎えて運営する民泊の場合は、その限りではありません。ホスト型民泊は、「ハード」「立地」「価格」以外に「オーナー」にお客様が付くためです。「あのオーナーに会いたい」「あのオーナーは東京のいいスポットを紹介してくれる」みたいな付加価値は「ハード・立地・価格」を超えます。

中小の民泊オーナーさんが勝ち残るには、オーナー自らが異国の地をもてなすパターンにシフトすると勝ち筋はあると言えます。

これから起こること④:地方での民泊は「まだ」勝機あり

一方で地方での民泊は可能性が大きいのではないかと思います。地方で宿泊代が高騰するのは限られたシーズンやイベントの時だけということが多いので、そのためだけにホテル旅館を建設するのはビジネス的にもナンセンスなため、そのシーズンだけ民泊を営業するというのは至極合理的です。日本でも徐々に民泊の利用数が増えていくので、今後はホテル/旅館以外の選択肢としても民泊は存在感を強めていくことになると思います。

また、参入プレーヤーも少ないため、ライバルが少ないという利点もあります。実際に、地方でも民泊は増加の一途を辿っています。ただし、過当競争に陥るリスクははらんではいます。

紆余曲折あるものの、今後も民泊は拡大を続けるのは明らかであると思います。とくに季節変動の大きいエリア×民泊というサイドビジネスは非常に相性がいいので、地方で拡大をしていくものと感じます。

著者紹介

内藤英賢(ないとう・ひでさと)

合同会社Local Story代表

合同会社Local Story代表。早稲田大学政治経済学部卒業後、三菱UFJ銀行に入行。退職して、吉本興業の養成所(NSC)を経て約3年半芸人として活動。その後、観光業界へ転身し、株式会社アビリブに入社。株式会社プライムコンセプトの創業にも参画し、取締役副社長COOなどを歴任。宿泊施設や観光地のマーケティング・ブランディングを中心に300以上のプロジェクトを手がける。現在は地域活性化やDMO支援、講演活動など幅広く活躍している。
X:https://x.com/Naito_Local

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