手帳は真っ白、新聞は見出しだけ 経営者が実感してきたアイデアが生まれる瞬間
2026年05月01日 公開
スケジュールは秘書に任せ、手帳には渡航予定しか書かない。新聞は見出しをざっと眺めるだけ。情報もモノも、できる限り頭と手の中に詰め込まない。
伊勢丹、鈴屋での新規事業立ち上げと海外進出を経て、寺田倉庫の代表取締役社長兼CEOとして老舗大企業を機動力溢れる組織へと変貌させた実業家・中野善壽(なかの・よしひさ)さんは、そんな「余白だらけ」の生き方を実践しています。
「分刻みのスケジュールを自慢するようでは、重要な情報が入って来なくなる」と語る中野さん。忙しいほどえらい、情報は多いほどいい。そんな常識を華麗にひっくり返すアイデアの生み出し方をご紹介します。
※本稿は『ぜんぶ、すてれば』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を一部抜粋・編集したものです。
予定を捨てる。ひらめきのための余白をつくる。
僕の手帳は真っ白だ。いつも持ち歩いている手帳には、滞在する国の渡航予定のみ書き、細かいスケジュール管理は秘書に任せているのですが、「できるだけ詰め込まないでね」とお願いしています。
意思決定する役割を持つリーダーは、いつでもアンテナを張っていないといけないし、思いつきの相談をいつでも受けられる余裕を持っていないといけない。分刻みのスケジュールを自慢するようでは、重要な情報が入って来なくなる。
アイディアのひらめきは、バラバラに入ってきた情報が思わぬ組み合わせで結び付くことで生まれる場合が多い。「もしかして、さっき見かけたアレと、2週間前に言われたアレは関わるかもしれないな」というふうに。
だから、"ぼんやりと考える時間"を意識的に持つことがとても大事だと僕は思っている。現場の仕事で忙しい年代だったとしても、定期的に「何もしない時間」をつくって、ぼんやりお茶でも飲む習慣を持ってみるのがおすすめです。
新聞を捨てる。見出しで想像すればいい。
情報は最小限しか入れない。情報源の一つである新聞に関しても、それをじっくり読む習慣は捨てました。
あるとき、気づいたんですね。日々変わるビジネスや政治の情勢をだいたい把握するためだったら「見出し」だけで十分じゃないかと。最近は、iPadに入れている「日経電子版」の記事一覧をパッと見て、そこに並ぶ見出しをザーッと眺めるだけで終わり。それでだいたいわかります。
見出しというのは要約中の要約だから、その十数文字から想像するだけで記事の中身はだいたいわかるんです。間違っているかもしれないけれど、細かいことを多少思い違えても、どうってことないかなと思います。
本当に詳しく知りたいニュースだけは心に留めておいて、後から詳しく調べます。優秀なスタッフもいますし、全部自分の頭だけに溜め込むのは、かえって非効率だと思っています。
僕は昔から記憶力は結構いいほうで、「あの日に、たしかこんなことがあったよな」と引っ張り出してきて、後から検索することもあります。大事なのは、すでに起こったことではなく、未来について考える時間をより多く取ることです。
実物を捨てる。極上の遊びは、頭の中にある。
モノに執着しない生き方を好むようになった原点はいつからか。遡って考えてみると、それは子どもの頃からでした。
小学校低学年の頃に夢中になっていたのは、ダイアグラム。架空の駅の名前を適当に考えて、線路をつなぎ、どんどん駅をつくっていく。すると、街ができ、国ができあがる。
街の中には家や店を書き、その一つひとつに想像上の名前を書き込んでいくと、それだけで日が暮れるまで遊べるんです。
オモチャなんていらない。紙と鉛筆だけでいつまでも遊んでいられる子どもでした。
あの頃、もし「鉄道模型のオモチャを買ってあげようか」と言われたとしても、僕は「いらない」と答えたでしょう。なぜなら、実物そっくりのミニチュアが目の前にあったら、自由な空想ができなくなってしまうから。
僕にとって最高の遊びは、自分の頭の中で心置きなく想像をめぐらせて、自分だけの世界をつくること。すでに現実世界でできあがっているものや既製品では、ゼロからつくり出す自由を奪われちゃう。
極上の遊びは、僕たちの頭の中にあるのです。