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SNS世代は褒められた経験が少ない? 『わたしの一番かわいいところ』仕掛け人が語る“褒める意義”

ヤマモトショウ(音楽プロデューサー)

2026年07月22日 公開

「わたしの一番かわいいところ」「NEW KAWAII」など、聴くと自己肯定感が上がると話題の楽曲を手がける音楽プロデューサー・ヤマモトショウさん。日常で使える褒めことばを165語集めた一冊『NEW褒めことば辞典』(KADOKAWA)を4月に上梓しました。

そんなヤマモトショウさんに、書籍に込めた想いや、近年の「褒める」行為における特徴について考えをお聞きしました。

 

相手を褒めることで、自分の気持ちも上がる

――作詞を通してたくさんの言葉を扱われてきたと思いますが、改めて「褒めことば」という切り口で書籍を作ろうと思ったきっかけを教えていただけますか?

【ヤマモト】楽曲を作ってきたなかで、他者からの評価として「自己肯定感が上がる」というワードがここ数年でよく出てきました。自己肯定感って何だろうと考えているなかで、相手を褒めることは自分も気持ちが上がり、その場の雰囲気が良くなることにたどり着いたんです。

プロジェクトをやっている時も、褒めことばを使うようにすると、関わる人たち全体の自己肯定感が上がっているんじゃないかと。だから、制作の場面で取り入れていた褒めことばを、本として一つ形にしてみることにしました。

――書籍に収録されている言葉は、実際に歌詞として使っているようなものも多いですか?

【ヤマモト】歌詞で使った言葉ももちろんいっぱい入っていますし、歌詞を書く過程の「この言葉も褒めことばなんじゃないか」と考えられるような言葉も加えました。

またこの企画は、作家の筒井康隆氏が昔、悪口を集めた論文(悪口雑言罵詈讒謗私論:1967年8月発表)を出していて、そこから着想した部分もあります。どんな言葉も多様な意味を持てると思うんですが、とくに歌詞って辞書に記されていること以外の意味を持たせやすいんですよね。褒めことばもそういう要素があって、そんなポジティブなものを書籍にできたら面白いかなと思ったんです。

――ヤマモトさんご自身は、もともと褒めることは得意な方でしたか?

【ヤマモト】音楽の仕事をやっていくなか

で、より相手を褒めるようになった感じがしています。自分一人では何もできないと実感するうちにそうなっていったかもしれません。

最初の頃は何でも自分でできる気がしてしまって、曲を作って全部自分で表現しようとしていたんです。でも、やっぱり歌ってくれる人がいないと成立しないし、そんな存在がいてくれるだけですごいことだなと思って。

何曲も書いているのに、アーティストやアイドルの方からシンプルに「めっちゃいい曲ですね」みたいな感想をいただくことがあって、それが一番嬉しいんです。結局、自分の喜びとか、次の仕事をするモチベーションって褒められることにあって、自分も誰かに対して褒めたい気持ちを表現した方がいいなと思うようになりました。

 

SNS時代の褒めことばの立ち位置

――本の中には「空気を読まない」「無理」など、一見ポジティブに見えない言葉も褒めことばとして登場しますが、現代の褒めことばにはどんな特徴があると思いますか?

【ヤマモト】褒めことばを言う場がすごく多様になってきていると思います。かつては面と向かって話したり、手紙やメールで言っていたようなことが、今はSNSという誰に向かって発言しているのかわからない言語空間があるじゃないですか。

歌詞というのはある意味昔からそういうもので、虚空に向かって投げているような言葉だったわけですけど、今はアーティスト以外の人もみんな発信できるようになっている。

ネット上で自分がさりげなく発した言葉が、誰かにとっての褒めことばになる場合もある。だから、褒めことばとして受け取られる可能性が昔よりかなり開かれているんですよね。

相手を褒めることの目的は一義的ではあるんですけど、一方でそれは自分を高めるというか、自分を褒めることと近しい意味合いを含んだものになっている、というのが今の褒めことばの立ち位置だと思っています。

――発した褒めことばが自分に返ってくる、というイメージでしょうか。

【ヤマモト】そうですね、自分に一番返ってくるんですよ、結局。そういう時代だなと思いますね。

 

今の若い世代は褒められた経験が少ない?

――若い世代はどんな褒めことばを求めていると思いますか?

【ヤマモト】こういった状況だからこそ、直接的な言葉をしっかり伝えていくことも求められているかなと思っています。『NEW褒めことば辞典』の最初の章はいわゆる普通の褒めことばで、当たり前な内容ではあるんです。言葉が多様になってきているし、どうとでも受け止められるからこそ、まずはプリミティブな褒めことばを伝えることも大事という意味合いもあります。

例えば、実際にレコーディングの現場では、FRUITS ZIPPERのメンバーが歌った後に、「めっちゃ可愛かった」とか「すごい上手いね」とか「素敵でした」みたいなことをまず言う。もちろん、あえて言っているというよりも本当に思ったから言うんですけど、そこからコミュニケーションがスタートするところはあると思っています。

アーティストの多くは、やっぱり上手く歌うことばかりに集中してしまうんですけど、音程やリズムって後からいくらでも直せるんですよ。でも歌の表情や雰囲気って後からはどうにもならない。

だから前向きに取り組んだことが伝わる歌に対して、音程は合っていなくても「あなたのこういう気持ちで取り組んだこのテイクがいい」などと褒めていかないと、全体としていい方向にならないんです。

ミスしたことって、やっている側も自覚があるんですよね。だから、ミスについて僕があえて指摘しなくてもいいんです。それより、「今のはこっちも聴いていて楽しかった」みたいなことを伝えてあげた方が意味がある。それは歌録りに限らず、ミスしたことを自分が一番わかっている、という状況で「ここは良かったよ」という話をすることで、結局そのミスもリカバリーできて、それ以上に重要な部分がより良くなっていくんです。

――褒めるところから始めるとコミュニケーションがなめらかに進む、と。

【ヤマモト】意外と褒められていないんですよね、今の若い人って。ネットの中には、すごい人が沢山いるように見えるから、自分のことは"大したことない"って思いがちなのかなと。例えばですけど、ネット上でみんなが高学歴に見えてしまったりとか。

音楽も「数百万回再生されていなければ大したことない」という見方をされることがあるけれど、100回再生されているだけでもすごいことだと思います。自分の音楽を聴いてくれる人を100人集めることって、実際にやってみると簡単ではないので。

だからといって褒められ待ちをするのではなくて、自分からどんどん誰かを褒めていった方が結果的に返ってくると思っています。

著者紹介

ヤマモトショウ

作詞作曲家・音楽プロデューサー

1988年、静岡県出身。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程を卒業。2013年よりバンド「ふぇのたす」のメンバーとして、ギターと作詞作曲を担当。その後、主に作詞作曲、サウンドプロデュースをメインに活動し、シンガーやアイドルなどを中心に楽曲提供をしている。
2024年に『そしてレコードはまわる』(幻冬舎)、2025年に『歌う言葉 考える音 世界で一番かわいい哲学的音楽論』(祥伝社)を刊行。地元静岡でアイドルグループfishbowlを立ち上げている。

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