2026年7月15日、第175回直木三十五賞の選考会が都内で開かれ、朝倉かすみさんの『けんぐゎい』(光文社)が受賞作に決まりました。受賞決定後の記者会見では、選考委員を代表して辻村深月さんが選評を説明。続いて朝倉さんが報道陣の取材に応じ、受賞後の心境について語りました。
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「技巧を超えたパワーがあった」
受賞作の『けんぐゎい』は江戸時代を舞台に、容姿や身分、境遇によって社会の外側に置かれた人々を描いた作品です。主人公は、顔に痘痕のある利発な女性・ふゆ。過酷な経験を経たふゆは、現人神と崇められる女医者との出会いをきっかけに、女性の身体と向き合うための知識を身につけ、自らの居場所を築いていきます。
選考委員を代表して選評を述べた辻村深月さんは、『けんぐゎい』の受賞は満場一致で決まったことを明かしました。当時は声を上げることが難しかった女性たちの生き方を、物語の力によって照らそうとしている点が高く評価されたといいます。
困難な場面が続く前半について触れながらも、「それを凌駕するパワーと祈りが後半に用意されている」と説明。技巧の巧みさだけでは捉えきれない作品だったとしました。
また、選考では「新しい時代小説」という言葉が出た一方、「時代小説という枠組みを外れた、名付けられない新しい形」と評価する声もあったといいます。
そして、江戸時代以外の時代や日本以外の国を舞台にしても成立し得る物語だと指摘。その理由として、虐げられ、どうにもならなかった人々の怒りや、それに抗おうとする力が作品の底に流れているからではないかと説明しました。
「候補になった時は本当にうれしくて、号泣しました」
受賞決定後の取材に応じた朝倉かすみさんは、「直木賞を授けてくださったことに感謝いたします」と喜びを語りました。
一方で、最も感情が動いたのは、受賞の連絡を受けた時ではなく、候補作に選ばれた時だったといいます。
「候補に上がった時は本当にうれしくて。泣いちゃったんです。それもただ泣くんじゃなくて、結構な号泣レベルで泣いてしまって(笑)」
候補入りした時点で「ここでピークが終わるくらい」の感情の動きがあったため、選考を待つ間は、意外にも大きく動揺することはなかったといいます。
初の時代小説を「夢中になって書いた」
左から朝倉かすみさん、芥川賞を受賞した小砂川チトさん
選考委員から「パワー」を評価されたことについて、朝倉さんは、初めて時代小説に挑んだことが作品の勢いにつながったのではないかと振り返ります。現代小説と同じようには書けないなかで、「どうすればいいんだろう」と考え続け、夢中になって執筆したといいます。
作品に描かれた、女性の身体や生き方をめぐる現代的な問題意識についても質問が及びました。
1960年生まれの朝倉さんは、子どもの頃に見た昼のメロドラマなどで、女性が嫌がらせを受けても、おとなしく言うことを聞くという物語を数多く目にしてきたといいます。
そうした状況を「そういうものだ」と受け止め、我慢したほうがよいと言われてきたほか、自身も後輩に同じようなことを言ったかもしれないと振り返りました。
しかし、時代の変化とともに、声を上げてもよいと考えられるようになり、『けんぐゎい』の執筆中には、過去の記憶や感情が何度もよみがえったといいます。
「怒ってもいいんだ、あのころは傷ついていたんだ、と自分のいろんなところが掘り出される感覚がありました」
また、江戸時代の資料を読むなかで、当時の女性たちが自分の身体をどのように捉え、どのような環境に置かれていたのかに疑問を持ったといいます。
堕胎を女性自身が行っていた事例などを知り、「やっぱり今のほうがいいな」と感じたことも、女性の身体をめぐる問題を描いた背景のひとつだったと語りました。