「こころのことで専門家を頼るのは恥ずかしい」――日本では「メンタル不調は自分でなんとかするもので、頼るものじゃない」と考えられがちですが、臨床心理士の佐瀬りささんいわく、「頼ることは弱さではなく、大事なセルフケアの1つ」とのこと。本稿では、相談する大切さや専門家の選ぶ上でのポイントを紹介します。
※本稿は、佐瀬りさ著『こころの「安全基地」のつくりかた』(大和出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「まだ大丈夫」の中にある、こころの未病
「私は大丈夫だと思っていました」
「カウンセリングなんて、自分には関係ないと思っていました」
これは、私がこれまで出会ってきた多くの方が口にする言葉です。私たちは、「うまくいかない」「少ししんどい」と感じても、「これくらい普通」「みんな同じ」と、自分に言い聞かせて、気づかないうちに頑張りすぎてしまうことがあります。
たとえば、いきなり熱いお湯に入れば、「熱い」と感じることができますが、少しずつ温度が上がっていくと、その変化にはなかなか気づくことができません。それと同じように、自分の思うようにうまくいかないことや、しんどさを感じていても、次第にその状態に慣れていくと、「まだ大丈夫」と思えてしまうことがあるのです。
でも実は、「まだ大丈夫」と思っているときは、すでに身体やこころからのサインが出ているとき。自分の置かれた環境が快適な状態であれば、当然、「まだ大丈夫」という考えにはいたりません。もしあなたが、日々のなんとなくのつらさを感じながらも、「まだ大丈夫」と思っていたら...。それは、「こころの未病」かもしれません。
1人でなんとかしようと思わない
こころにたまったものを落とし、休息や睡眠で潤し、「快」で補い、境界線で守っていく。こうしたケアを、日々の中で重ねていくことで、少しずつ「これが自分」という感覚がはっきりしてきます。どう過ごすと自分が心地よいのかがわかり、自分らしい自分が育っていきます。
こころの中の「赤ちゃん」の声(湧きあがる感情や「こうしたい」という気持ち)を受け取り、それが実現できるように「お母さん」(自分の中にある「こうしたい」という欲求と「こうあるべき」という社会的な基準の間でバランスを取る存在)が調整し、支えていく。
そうしたやりとりの中で、自分の内側が安心できる場所になっていきます。それがあるからこそ、私たちは安心して外の世界とつながることができ、何かがあっても「きっと大丈夫」と感じられるようになります。それが、あなたの中の「こころの安全基地」です。
けれど、どれだけ丁寧にケアをしていても、うまくいかないときはあります。スキンケアでは、トラブルがあれば、皮膚科に行きます。今以上によくしたいときには、エステに通ったりもします。こころも、それと同じだと思ってほしいのです。
「いつもは落とせるものが、今日は落とせない」
「眠りの質が、いつもと違う」
「楽しいと感じられない」
「境界線がいつもより緩んでいる気がする」
そんな、小さな違和感を持ったたときや、「さらに整えたい」「もっとよくしたい」と感じるときには、ひとりでなんとかしようとせず、こころの専門家の手を借りる。それが、ここでいう「スペシャルケア」です。
私たちはこころのことになると、「これくらいのこと、自分ひとりでできるはず」「誰かに頼るほどのことじゃない」「もっと大変な人もいるのに」。こんなふうに考えて、ひとりで抱え込こもうとしてしまいます。とくに日本では、「こころのことは自分でなんとかするもの」という考えが、当たり前のものとして根づいているように感じます。
一方で、もしあなたの大切な人が同じようなしんどさを抱えていたら、「1人で頑張りなさい」と言うでしょうか。それとも、「誰かに相談してみたら?」と声をかけるでしょうか。きっと、多くの人が後者を選ぶのではないかと思います。どうか、自分にも同じ言葉をかけてあげてください。
こころのケアは、一人でやり切ることに意味があるわけではありません。あなたのこころが「快」でいられること。それがいちばん大切なことです。ひとりでそれができるなら、もちろんそれでOKです。でも、こころの専門家の力を借りながら、それができるのも、同じようにOKなことです。
誰かの力を借りることは、弱さではありません。自分を大切にするための、大事なセルフケアのひとつです。だからこそ、こころの専門家を頼ることも、もっと気軽に選択肢のひとつに加えてほしいと思います。
あなたのピッタリを探そう
こころのケアがうまくいかないとき、「専門家を頼ることが大切」とわかっていても、「では、誰に相談したらいいの?」という疑問が出てくるかもしれません。
実は「カウンセラー」という名前は、誰でも名乗ることができます。大学院で心理学を専門的に学び、実践やトレーニングを重ねてきた人もいれば、短期間の講座で資格を取得して活動している人もいます。だからこそ、「どこに行けばいいんだろう」と迷うのは、とても自然なことです。ここでは、いくつかの見てほしいポイントをお伝えします。
①どんな学びの背景があるか?
カウンセラーといっても、どんな学びをしてきたのかは人それぞれです。これまでどのような学びを積み重ねてきたのかを知ることは、安心して関わるための大切な手がかりになります。
②学びを続けているか?
カウンセリングの技術は、一度学べば終わりというものではありません。その人が、今も学びやトレーニングを続けているかどうかも、ひとつの大切な視点です。
・研修や勉強会に参加しているか
・よりよい関わりのために、指導や助言(スーパービジョン)を受けているか
・自分自身もカウンセリングを受けながら、内面と向き合っているか(教育分析)
こうした積み重ねが、セッションの質にもつながっていきます。
③好感が持てるか?
①②の視点と同時に大切にしてほしいのは「この人となら話してみたい」と感じられるかどうかです。私たちの中には、言葉になる前の感覚があります。「快・不快・好き・苦手」といった感覚は、あなたにとっての大切なサインです。
「なんとなく安心する」
「なんだか緊張する」
そんな感覚も大切な手がかりになりますので、自分の中の小さな感覚を大切にしながら、選んでみてください。
そして、もうひとつ大切なのは「調子のよいとき」「まだ何もないとき」にカウンセラーになってほしい人を探しておくということです。セルフケアのサイクルがうまく回らなくなってから、頼れる人を探そうとするのは、とても大変です。焦って選んでしまい、後悔してしまうこともあるかもしれません。
ただでさえ少ないエネルギーを、カウンセラーを探すために使い切ってしまい、もっとしんどくなってしまうかもしれません。だからこそ、少し余裕があるときに、「もしものときに相談できそうな人」を見つけておくことをおすすめします。もし、気になるカウンセラーがいれば、講演やセミナー、体験相談などに触れておくのも、1つの方法です。