1. PHPオンライン
  2. 社会
  3. 「日本人と中国人ではウケるネタが違う」日中夫婦YouTuberが実感した意外な反応

社会

「日本人と中国人ではウケるネタが違う」日中夫婦YouTuberが実感した意外な反応

中島恵(フリージャーナリスト)

2026年08月27日 公開


(写真提供:日中夫婦  健&茜さん)

ネガティブな報道で語られがちな「外国人問題」ですが、日本で働く在日中国人の多くは、私たちと変わらない「ごく普通」の日常を過ごしています。メディアでは報じられない故郷の素朴な魅力を届けようと、SNSで発信を続ける「日中夫婦 健&茜」さんの取り組みからは、相互理解のヒントが見えてきます。

フリージャーナリスト・中島恵さんの書籍『中国人は日本で何をしているのか』より紹介します。

※本稿は中島恵著『中国人は日本で何をしているのか』(日経BP)より一部を抜粋・再構成したものです。

 

日本で、日本語を使って働いている

25年7月の参議院議員選挙の際、「外国人問題」が争点としてクローズアップされた。

むろん、在日外国人すべてに問題があるわけではない。問題を起こし、ニュースになっているのはごく少数だ。

25年12月末現在、約93万人の在日中国人で最も多い在留資格は「永住者」(約35万6000人)、続いて「留学」(約14万8000人)、「技術・人文知識・国際業務」(約11万7000人)で全体のおよそ6割以上を占める。これらの在留資格を持つ人々は、一般企業の会社員や経営者、日本人や中国人の配偶者が多い。

多くの日本人と同じように「ごく普通」に暮らしているので、ニュースとして取り上げられることはほとんどない。

そんな会社員の一人、宋子健さんを紹介しよう。といっても、会社員として働くだけでなく、ユーチューバー「日中夫婦 健&茜」としての顔も持つ。中国についてネガティブな報道が多い日本で、日本人に「本当の中国を知ってほしい」と、週末に日本人の妻、稲垣茜さんと二人で動画を作成している。

宋さんは96年、内陸部の安徽省で生まれた。天津師範大学日本語学科に在学中、三重大学との交換留学で初めて来日した。子どもの頃から日本のアニメなどサブカルチャーが大好きだったので、大学を卒業後、再び来日。都内の大手化学メーカーに就職、営業担当として働いている。

10年ほど前までなら、中国人は中国語を使う専門部署で働くことが多かったが、最近は日本人と変わりなく仕事をする人が増えている。宋さんも、日本人と変わりなく、仕事で使っているのは主に日本語だ。

23年6月、宋さんはユーチューブを始めた。きっかけはその年の1月に茜さんと結婚したことだ。中国にいる両親や親戚と実家で過ごす場面や、田舎ののどかな風景、結婚式の動画などを撮って公開したところ、「日本のメディアで報道されている中国と全然違うんですね」「中国にはこういう素敵な面もあるんだ」と興味を持つ日本人が増えた。

 

日本人が関心を持つのは「素朴でリアルな内容」


(写真提供:日中夫婦  健&茜さん)

宋さんは、中国の情報に関心を持つのは、仕事で関係がある人、中国語を学んでいる人などが多いと思っていた。だが、ごく一般の日本人が自分のユーチューブを見ているのを知り、大手メディアでは報じられない情報を求めていると感じた。

それからは、自分の国や故郷について紹介することにやりがいを感じ、動画制作に力を入れるようになった。会社は副業を認めており、もちろん上司の許可も得ている。

宋さんの目的は収入ではなく、本当の中国を日本人に知ってほしいという純粋な動機だ。

取り扱うテーマは「中国の文化、社会、語学、中華料理、日本のガチ中華、恋愛事情、日中国際結婚」など幅広い。

ユーチューブで情報発信する在日中国人(帰化した人も含む)としては、作家で参議院議員の石平さんや中国の元CCTV(中国国営中央テレビ)の報道記者だった王志安さん、エコノミストの柯隆さん、マイティーポーさん、在日中国人二世の李姉妹、さらには会社員、留学生などがいるが、宋さんによると、全員合わせても数十人程度と、その数は案外多くない、という。

テーマは宋さんのような文化系のほか、中国の政治経済のニュースを解説するタイプ、日中比較文化の紹介などだ。中国の内情を在日中国人向けに中国語で暴露するタイプのチャンネルもある。

現在のように、日中関係が冷え込むと、注目を集めるのは解説系や暴露系だ。文化系や日中友好系は固定のファンはいるものの、視聴者からは中傷コメントが投稿されたりする。一部のユーチューバーは「時節柄、リアルイベントへの出席はとりやめます」という人もいる。

宋さん夫妻はユーチューブのほか、TikTok、インスタグラム、小紅書、抖音(ドウイン)などのアカウントを開設。総フォロワー数は10万人を超えるまでになった。ユーチューブの視聴者の95%は日本人で、20〜30代の女性が多い。中には宋さんたちのような日中夫婦もいる。

宋さんによると、当初はすべてのSNSに同じ動画を出して、日本語と中国語の字幕をつけていた。政治的な内容は翻訳に注意を払い、ネガティブな話はマイルドな表現にするなど気を使っていたが、次第に、日本人を対象にした動画に力を入れていくようになった。

また、日本人と中国人では「ウケるネタ」が違うことにも気がついた。日本人に比較的関心を持たれるのは安徽省の家族とのふれあいなど、素朴でリアルな内容だ。一方で、北京や上海などの大都会を歩く動画は視聴回数が伸びない。宋さんの故郷、安徽省は、日本ではほとんど知られていないので、「紹介し甲斐がある」という。

宋さんたちは刺激的な内容で視聴者を増やそうとは考えていない。自分たちのふだんの生活や帰国時に訪れる店や町を淡々と紹介し、中国の一面を少しでも多くの日本人に知ってほしい、そんな気持ちでやっている。

動画を制作しながら、「自分の故郷のよさを再認識することもある」と話す宋さんは、ユーチューブを始めることによって、新鮮な気持ちで自分の国を見つめられるようになった。

 

著者紹介

中島恵(なかじま・けい)

フリージャーナリスト

1967年、山梨県生まれ。新聞記者を経て、フリージャーナリスト。
公式ホームページ http://keinaka.com/ 
著書は出版順に『トラブらないトラベル会話 広東語』(三修社)、『職は中国にあり』(夏目書房)、『ポジャギ 韓国の包む文化』(白水社)、『中国人エリートは日本人をこう見る』、『中国人の誤解 日本人の誤解』(いずれも日経プレミアシリーズ)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』(中央公論新社)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)、『中国人エリートは日本をめざす』(中央公論新社)、『中国人富裕層はなぜ「日本の老舗」が好きなのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は財布を持たないのか』『日本の「中国人」社会』『中国人は見ている。』(いずれも日経プレミアシリーズ)、『中国人のお金の使い道』(PHP研究所)、『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)がある。

関連記事

アクセスランキングRanking