写真:福尾美雪
気候が変化すると、体調を崩したり、風邪をひきやすくなったり...。季節の変わり目の不調を防ぐにはどうしたらいいのでしょうか。
料理家のウー・ウェンさんは日頃から「体を冷やさないこと」「体に良い食事をとること」を意識されていると語ります。本稿では、ウーさんに「医食同源」の考えに根ざした、シンプルで持続可能な健康法についてお話をうかがいました。
ウーさんが教える「免疫力を高める食事」
――ウーさんは、日ごろから体を温めることを心掛けているそうですね。
【ウー】人間の健康を支えているのは、結局は内臓だと思うんです。体温より低いものを体に入れると、内臓に負担がかかります。だから「体を冷やさないこと」を意識すると、体の調子が変わってくるんですよ。
私は夏でも冷たい飲み物は口にしません。ヨーグルトも常温にして食べます。毎朝食べるんですが、朝ご飯を作る前に冷蔵庫から出しておくんです。長く出しっぱなしだと傷んでしまうので、食べるときに冷たくないように調整しているんですよ。
――風邪もひかれないとか。
【ウー】家族には「恥ずかしいから言わないで」と言われるんですけど(笑)。日本では「馬鹿は風邪をひかない」って言いますよね。でも、頭が悪くても健康な方がいいじゃないですか(笑)。
夏は体は暑さに負けないように頑張っています。でも涼しくなると「もう頑張らなくていいんだ」と体が感じて、本能的に疲れが出てくるんです。週末に調子を崩すのも、そういう本能的なリズムだと思います。だから、そういうときは水分を取ることと温度の調整が何より大事だと思っています。
――季節の変わり目に体調を崩す方は多いです。ウーさんが意識的にとっている食材はありますか?
疲れた体にお肉を入れると、逆に「消化しなきゃ!」と体が余計に頑張ってしまう。だから私は栄養があってカロリーの少ないものを選びます。たとえばキノコ。免疫力を高めてくれるビタミンが豊富なんです。
私は秋だけでなく毎日キノコを食べています。免疫力って一度下がってから回復させるのは難しい。だからこそ「低下しないようにする」ことが大事なんです。習慣にしてこそ意味があると思っています。
――キノコをどのように調理されているんですか?
【ウー】キノコは一つのワールドなんですよ。毒キノコもあれば、食べられるキノコもある。その違いを生み出しているのが菌で、菌の働きがとても大事なんです。
形状も本当にさまざまですよね。大きく分けると、しっかりした形状のものと、ひょろひょろしたものがあります。たとえば、えのきやしめじは細長いタイプですね。私はいつも形状で使い分けています。
エリンギのようなしっかりしたものは、スープより炒め物の方が向いていると思います。調理の仕方で形状を自在に変えられるからです。逆にえのきは、どうしても形が変わらない。しめじも同じで、形を変えにくいキノコです。でもその分スープにするのに向いている。出汁もよく出ますからね。
日常に根付く「医食同源」の考え
――中国ではキノコがよく食べられているんですね?
【ウー】先月、5年ぶりに北京に8日間ほど滞在して、買い物もいろいろしました。お店で驚いたのはエビや貝柱などの高級食材よりキノコの方がずっと高かったこと!
乾燥キノコの種類は本当に多くて、どれを買えばいいのか迷うくらいです。日本では「秋の味覚」として捉えられがちですが、中国ではどこの家庭でも、毎日のようにキノコを食べています。免疫力を高めてくれるので、日々の食生活に欠かせないんです。
――やっぱり中国では「医食同源」の考えが強いんでしょうね。
【ウー】中国では漢方が「独立した特別なもの」としてあるわけではなく、普段の生活そのものなんです。つまり、特別に用意するのではなく、日々の食事の中に自然にあるものなんです。
だから「医食同源」という言葉があるんですね。時季や体調に合わせて食べるものを選ぶ。普段の食生活そのものが薬になる、という考え方です。日本では「薬膳レストラン」とか「薬膳料理」といった形で特別なもののように扱われていますが、中国ではまったく違います。どんな食材も生薬として捉えることができ、それぞれに効能がある。当たり前のことなので、わざわざ特別視はしないんですよ。
実は娘が去年からベルギーで働いているんですが、ヨーロッパの人たちは抗生物質をあまり飲まないと聞きました。自分の菌を殺してはいけない、と考えているそうで、ヨーロッパにも医食同源の考えが根付いているんじゃないかなと感じました。
日本は保険制度がよく整っていることもあって、「病院に行って薬で治す」という傾向があると思います。もちろん、重い病気は絶対に病院に行った方がいい。でも、風邪などの不調は、そうならないように普段からどう生活するかが大切だと思います。「不調を感じる前に、食で体を整えておく」。そういう習慣を身につける方が、ずっと楽だし、体も喜ぶと思いますよ。
(取材・執筆:PHPオンライン編集部 小林実央)