SNSやAIの発展など、ますます便利な世の中になっていますが、それに伴って「以前より悩みが増えた...」という人も多いのではないでしょうか。加えて、その悩みを解決できずにモヤモヤを抱えたまま暮らしている人もいるかもしれません。
悩みを放置してストレスを感じ続けると、健康へ悪影響を及ぼすことも。そこで本稿では、Smart相談室CEOの藤田康男さんが勧める「すぐにでも実践可能な心のメンテナンス方法8選」を紹介します。
※本稿は、藤田康男著『悩みの統計学』(扶桑社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
今日から実践できる「モヤモヤを洗い流す8の方法」
研究者たちは、悩みの対処に大切なのは解決ではなく「心の中に溜め込まないこと」だと提言しています。
神経科学者のブルース・マキューエンとピーター・スターリングは「アロスタティック負荷」という概念を提唱しました。「人はストレスを感じること自体よりも、その状態が長く続くことで、脳や身体への負担が蓄積し、健康への悪影響が大きくなる」というものです。
また、心理学者のスーザン・ノーレン=ホークセマは、「反すう」という概念を示しました。「悩みについて繰り返し考え続けること」により、ストレスが長引き、抑うつになりやすく、不安な状態が悪化する、というものです。
ここでは、1日5分でできる、「モヤモヤを洗い流す8の方法」を紹介します。今日からすぐに実践できる小さな行動ばかりです。自分に合うものを1つでも見つけ、毎日の習慣にするだけで、悩みは少しずつ軽くなっていくはずです。心のメンテナンスも、歯磨きや入浴と同じように、毎日の習慣にしてしまいましょう。
人に話す、大きな紙に書く
①とにかく誰かに悩みを話す
心理学では、感情を言葉にすることを「情動の言語化」と呼びます。心理学者のマシュー・D・リーバーマンらの研究では、感情を「怒っている」「不安だ」と言葉にするだけで、脳の扁桃体の活動が落ち着き、感情をコントロールする前頭前野の働きが高まることが示されています。感情に名前を付けて言葉にするだけで、脳の扁桃体の活動が落ち着き、不安やストレスが和らぐのです。
また、心理学者のシェルドン・コーエンとトーマス・ウィルズは、「人とのつながり(ソーシャルサポート)があることで、ストレスが心身の健康に及ぼす悪影響を弱める(緩衝する)」というストレス緩衝モデルを提唱しました。話す相手は、家族でも、友人でも、同僚でも、カウンセラーでも構いません。「話せる人が1人いる」という安心感そのものが、心を支えてくれるのです。
もし今、話せる相手が思い浮かばないなら、「誰になら話せそうか」を考えることから始めてみましょう。AIを活用することも1つの手段かもしれません。
②大きな紙に書き出してみる
心理学者のジェームズ・ペネベーカーは、悩みや感情を紙に書き出すことで思考が整理され、ストレスが軽減されることを明らかにしました。頭の中だけでは大きく感じる悩みも、紙の上に書き出すことで、「考え」から「見える課題」へと変わり、冷静に向き合いやすくなるのです。
おすすめは、できるだけ大きな紙を使うことです。A4よりもA3、ノートよりも模造紙くらいの感覚で自由に書いてみましょう。悩みだけでなく、関係する人、出来事、気持ち、心配事を矢印でつなげながら書くと、頭の中が整理されていきます。書き出すことで、「本当の問題は何なのか」「思っていたほど複雑ではなかった」と気づくことも少なくありません。
心理学では、書くことによって感情を整理する方法をエクスプレッシブ・ライティングと呼びます。書くことは、考えることとは違います。見える形にすることで、悩みは「頭の中の敵」から「目の前の課題」へと変わっていくのです。
脳に余白を与える
③3分間、ボーっとする
悩んでいるときほど、人は考え続けます。あえて3分間だけ何もしない時間を作ってみましょう。窓の外を見る、空を眺める、コーヒーを飲む。ただそれだけです。脳には「デフォルト・モード・ネットワーク」という、ぼんやりしているときに働くネットワークがあります。
この時間に脳は情報を整理し、新しい発想や気づきを生み出しています。アイデアが散歩中やお風呂で浮かぶのも、そのためです。忙しい現代では、「何もしない時間」は怠けることではありません。脳に余白を与える大切なメンテナンスなのです。
ただし、「デフォルト・モード・ネットワーク」は万能ではありません。過剰に働くと、ネガティブなことを繰り返し考えてしまい、自己批判が強くなる「反すう」に陥る、ということもあります。長時間に及ぶと、かえってストレスや抑うつを悪化させることがあります。くれぐれも3分間、ちょっと、ボーっとしてみましょう。
④宇宙から自分を見てみる
想像してみてください。自分を部屋の天井から見下ろし、街の上空から見下ろし、日本全体、そして宇宙から眺めてみましょう。心理学では、こうした視点の切り替えを「セルフ・ディスタンシング」と呼びます。
心理学者のイーサン・クロスらの研究では、自分を第三者のように眺めたり、「1年後の自分ならどう考えるだろう」と想像したりするだけでも、感情に飲み込まれにくくなり、問題を冷静に整理できることが示されています。今の悩みを「宇宙から眺めてみる」というイメージも、その実践の1つです。
問題との距離を少し取るだけで、感情的になりすぎず、冷静な判断ができるようになります。「1年後の自分なら、この出来事をどう思うだろう」と考えるのも同じ方法です。悩みの大きさは変えられなくても、自分と悩みの距離は変えられるのです。
笑顔を心がける
⑤「ニコッ」としよう。「ま、いっか」と言おう
笑うから気分が良くなることもあります。これは「表情フィードバック仮説」として知られています。この考え方のルーツは古く、19世紀の心理学者ウィリアム・ジェームズとチャールズ・ダーウィンにさかのぼります。
その後、1988年に、心理学者フリッツ・シュトラックらが「ペン実験」により、笑顔に近い表情をした方が、読んだ漫画をより面白いと評価する、という効果を発見しました。口角を少し上げるだけでも、脳は「楽しい」と錯覚し、感情が穏やかになるということです。
また、「ま、いっか」という一言は、完璧主義を和らげる魔法の言葉です。「今すぐ解決できないなら、一度手放そう」という心の切り替えです。深刻な悩みほど、少しだけ力を抜くことが必要です。笑顔と一言が、思考の流れを変えるきっかけになることがあります。
⑥「違う場所」へ行き、物理的に離れる
同じ場所にいると、同じ考えを繰り返しやすくなることもあります。環境心理学では、周囲の環境が感情や思考に大きく影響することが知られていますから、悩みが続くときは、場所を変えてみましょう。それだけで気分が変わるかもしれません。オフィスを出て近くの公園へ行く、カフェに移動する、家の別の部屋へ行く、それだけでも十分です。
景色が変われば、脳への刺激も変わります。煮詰まった会議でも場所を変えると議論が進むかもしれません。悩みから離れられないときは、その場所から離れてみる。場所を変えることが、心を動かす第一歩になります。
心を整える作業をルーティン化する
⑦1日5分間だけ、「今ココ」にいる時間を持つ
私たちの不安の多くは、「過去への後悔」と「未来への心配」から生まれます。一方で、心は「今」にいる時間が意外と少ないものです。だからこそ、1日5分だけでも「今ココ」に集中する時間を予定に入れてみましょう。呼吸に意識を向ける、お茶の香りを感じる、歩く感覚に集中する。それだけで十分です。これは「マインドフルネス」と呼ばれ、多くの研究でストレス軽減や集中力向上の効果が確認されています。
大切なのは、気が向いたらやるのではなく、予定として入れることです。心の健康も、仕事の予定と同じように時間を確保する価値があります。
⑧「モヤモヤ洗い流し作業」を習慣化する
健康心理学者フィリッパ・ラリーらの研究では、新しい行動は毎日繰り返すことで徐々に自動化され、平均66日ほどで習慣として定着することが示されています。
習慣づくりに必要なのは、大きな変化ではありません。1日5分でも続けることが、やがて「特別な努力をしなくても自然にできる行動」へと変わっていくのです。5分間、誰かに話す、紙に書く、散歩する、深呼吸する。そのどれか一つでも構いません。「モヤモヤ洗い流し作業」をしましょう。
重要なのは、「調子が悪くなってから」ではなく、「調子が良い日にも続ける」ことです。心の健康は、予防がもっとも効果的です。毎日の小さな習慣は、確実に心の回復力を育ててくれます。
これらの習慣の本質は、「出す」「客観視する」「騙す」という3つのステップに整理できます。話す・書くことで頭の中から悩みを「出す」。次に、出した自分の悩みと距離を取り「客観視する」。そして最後に、笑顔をつくったり、「ま、いっか」と声に出したり、場所を変えるなどして、脳の働きを上手に利用して自分を「騙す」。
最後の「騙す」は、否定的なものでも現実逃避でもありません。感情に飲み込まれた状態から抜け出し、本来の冷静な自分を取り戻すための工夫です。この3ステップを身につければ、モヤモヤを抱え続ける時間は確実に短くなるでしょう。