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褒めるのは逆効果? 「打たれ弱い部下」を活かす方法

小倉広(組織人事コンサルタント/心理カウンセラー)

2013年08月26日 公開 2022年12月28日 更新

「YOUメッセージ」の落とし穴

横からの目線の発言とは、厳密に言えば、「私はどう感じるか」ということが主体の「Iメッセージ」になっています。

一方、「You're great(あなたは優秀だね)」といった「YOUメッセージ」だと、完全に褒め言葉になってしまうため、上から目線の印象を与えてしまいます。

私の部下に、コンサルタントをしている30代の男性がいます。彼のお客さまには、ベンチャー企業の社長さんが多く、40代の、彼と年齢の近い若い社長さんもいます。

いくら若いとは言っても、年齢的に人生の先輩であり、経営者であり、何より、大切なお客さまです。にもかかわらず、彼は、「いやあ、さすが坂本社長(仮名)は優秀ですね!」などと、相手を褒めることがあります。

そのたびに、隣にいるこっちは、「おいおいおい、社長に優秀ですねって、どれだけ上から目線になっているんだよ」と、本当にハラハラしてしまいます。ところが、当の本人はまったく気づいていません。

気づいていないというより、コーチングなどを学んでいるため、人のことを認めようという考えが頭の中にあり、とにかく、褒めればOKだと肯定的に考えているのです。

「優秀ですね」「素晴らしいですね」といった褒め言葉は、まさに「YOUメッセージ」であり目上の人に対しては、完全に失礼な発言です。「そんなことお前に言われたくない」と思われてしまっても仕方ありません。

余談ですが、たまに私は、「小倉さん、文章お上手ですね!」と声をかけていただくことがあります。そのときは、「プロなのに褒められた? そうか、素人だと思われているんだな...」と、ちょっと悲しくなってしまいます。

褒めれば何でもOKと思いきや、このように、「YOUメッセージ」で言われると、それがたとえ賞賛の言葉だとしても、カチンとくることもあるのです。つまり、褒められることが、必ずしも嬉しさや喜びにつながるわけではないということです。

 

部下を子ども扱いしてはいけない

社会の傾向として、子育てでも社員育てでも、「褒めて伸ばす」ということがよく言われています。そうしたなか、実際に自分もそのやり方を取り入れてみたところ、打たれ弱い部下には逆効果になるということに気づきました。

褒める行為というのは「相手を子ども扱いしていること」だと気づいたからです。実はすごく失礼なことなのではないかと、つくづく思うようになったのです。

たとえば、イチローがヒットを打ったとき、出てくるのは、「すごいな!」といった感嘆の言葉や思いでしょう。

「ああ、イチロー、よくがんばったね。君は本当に偉いね!」などという発想には、おそらく誰もならないのではないでしょうか。

人を褒めるという前提条件には、自分が相手より優越しているという気持ちがあります。打たれ弱い部下というのは、それに対して敏感にビビビッと反応するので、余計に劣等感をえぐられることになるのです。

すると、偽りの優越感をさらに肥大化させていくので、ますます精神的にも追いつめられていってしまうわけです。

それを回避するには、前述した「横から目線」による「Iメッセージ」での発言などが有効です。つまり「対等の立場で語る」ということが必要なのです。

では、対等とはどういうことなのでしょうか。それは、わかりやすく言えば、「上司は保護者になってはいけない」ということです。

部下を保護しすぎるということは、ある意味、その部下を子ども扱いしているということになります。そうではなく、相手を対等な人格として認め、信じるのです。つまり、「できない部下」ではなく「できる部下」という前提で接するということです。

現状がどうあれ、「今はできていないかもしれないけれども、やればできるヤツなんだ」という前提で、コミュニケーションをとり続けていくことが大切です。それが相手を子ども扱いしないコミュニケーションの取り方になる、と思うのです。

<著者紹介>

小倉 広

(おぐら・ひろし)

株式会社小倉広事務所代表取締役、組織人事コンサルタント、心理カウンセラー

大学卒業後、株式会社リクルート入社。企画室、編集部、組織人事コンサルティング室課長など主に企画畑で11年半を過ごす。その後ソースネクスト株式会社(現・東証一部上場)常務取締役などを経て現職。大企業の中間管理職、公開前後のベンチャー企業役員、中小企業の創業オーナー社長と、あらゆる立場で組織を牽引。しかし、リーダーシップ不足からチームを束ねることに失敗し二度のうつ病に。一連の経験を通じて「リーダーシップとは生き様そのものである」との考えに至る。幼少期のアダルトチルドレン体験、ビジネスや人間関係の失敗などを赤裸々に語るコラムに熱烈なファンが多い。

執筆、講演、カウンセリング活動の他に人間力向上のための小倉広「人間塾」を主宰。塾長として東洋哲学の啓蒙を行っている。また、『33歳からのルール』(明日香出版社)などを通じて、悩める30代を救うメンターとしても知られている。著書は『任せる技術』『やりきる技術』(以上、日本経済新聞出版社)、『自分でやった方が早い病』(星海社新書)、『僕はこうして、苦しい働き方から抜け出した。』(WAVE出版)、『30代で伸びる人、30代で終わる人』(PHP研究所)など約30冊。他に、7冊の著作が韓国、台湾、香港などで翻訳販売されている。

 

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