松下幸之助 『道をひらく』 500万部突破記念 特別インタビュー
『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2014年3・4月号Vol.16より
聞き手:櫻井済徳(同誌副編集長)/写真撮影:永井 浩
直感で購入、心に響く言葉ばかり
――松下幸之助の『道をひらく』が、先般、500万部を突破しました。これほどロングセラーを続けているのは、男女を問わず幅広い世代の方たちに親しんでいただけているおかげだと思っています。押切さんは、雑誌などでこの本を愛読していると話してくださっていますが、どういうきっかけで手に取られたのですか。
この本もその一つです。20代のころでしたが、開いて数ページ目を通して、これは人の生き方の原点を書いた本だという直感があって、買い求めました。
――それまで松下幸之助のものを読まれたことは?
これが初めてでした。もちろん、お名前と松下電器(現パナソニック)の創業者であることは知っていました。日本を代表する経営者の方なので、いかに勝ち抜いていくかということを説いているのかと思いきや、むしろ“人を立てる”ことの大切さや、素直さ、謙虚さを説く文章が並んでいて、そこにちょっと驚きがありました。しかも、どのページを開いてもうんうんとうなずくことばかりで、心に響く言葉しかない、というぐらいに無駄がないんです。
ふだんは、特に心が弱くなっていてパワーが欲しいときに、本棚から手に取って、これだというページを読み返します。そうすると立ち直る力がもらえる。そういう“レスキュー効果”といいますか、私にとっての“心の救急箱”という位置づけの1冊です。即効性もありますし、持続性もあって、とてもよく効きますね。
言葉がスッと心に入ってきて勇気づけられる
――特に好きな言葉とか、印象深い箇所はありますか。
あります、あります。たとえば、「心を通わす」(『道をひらく』76頁)の項に、人生にはよいこともわるいこともあるけれど、心を閉ざしてはいけない、素直に謙虚に心をひらいていきなさい、とあります。私はモデルとして決して順風満帆だったわけではなくて、つらいことも味わいました。ようやく仕事が波に乗ってきて「これからだ」というときに、首を骨折する大ケガを負ってしまったりもしましたし。そのときはもう絶望感でいっぱいでしたが、〈はじめからしまいまで徹底的にわるいということもなければ、また徹底的によいということもない〉という言葉にすごく勇気づけられました。そして、こういうときだからこそ、心を閉ざさずに、周りの人たちと心を通わせていかなくては、と思うことができました。
少し前に、ちょっと行き詰まってへこんでいた時期があったのですが、そのときにハッと思わされたのが、「心配またよし」(106頁)という言葉です。〈心配や憂いは新しくものを考え出す一つの転機ではないか〉、確かに、これは転機だと考えることで気持ちが切り替わり、すごく楽になりました。
ほんとうにスッと心に入ってくる言葉が多くて、前に進む言葉をたくさんもらっています。
――状況によって、入ってくる言葉も違ったりしますからね。
そうなんです。読むとき、読む状況によって、違う角度、違う厚みで私の中に響いてきて、「あっ、今の私に必要な言葉はこれだ」と気づかされるんです。
「根気よく」(100頁)の項に、〈一挙に事を決するということを行なえば、必ずどこかにムリを生じてくる〉という文章がありますね。これもすごく好きです。
このあいだ、ロクシタン創業者のオリビエ・ボーサンさんという方とお会いする機会があったんです。ロクシタンというのは、添加物・着色料を使用しない自然派のコスメティック・ブランドですが、どういう考えで商品をつくっているのか、いろいろお話をお聞きしました。そのときに、「流れる水は握りしめないことだ」とおっしゃっていて、その言葉がとても心に残りました。流れてくる水は、手にすくえるだけすくえばいい、それを、どうしても欲しいと思って握りしめようとしたら、手からあふれてしまって何も残りませんよね。
自然という大きな力に身を任せて、謙虚に行動することが大切だというその考え方と、松下幸之助さんがおっしゃっていることは相通ずるものがあるように思えて、立派な経営者というのは同じような考え方に行きつくのかなあ、と思ったりもしました。