いろんな挑戦をとおして道が広がった
――モデル業のかたわら、いろんなことに挑戦されていますが、最近、『浅き夢見し』という小説も書かれました(小学館刊)。モデルの世界が舞台になっていて、あきらめてはいけないよという前向きなメッセージが込められた作品だと感じました。ご自身の葛藤が投影されている部分もあるのでしょうか。
基本はフィクションですが、モデルとしての自分にコンプレックスを感じ、ほかの人と自分を比べて落ち込んだりしていたかつての私自身の心理を投影させている部分はあります。もともと私は臆病で、あきらめが早く、人見知りな性格だったのですが、いろいろな人やいろいろな本から知恵をもらって、ポジティブに人生を歩みたいという気持ちが私を変えてくれました。だから、若い子たちにも、気持ちの持ち方次第なんだということを伝えたかったんです。書きたいことはたくさんあって、小説はまた書きたいと思っています。
――一方で、マラソンとか登山にも挑戦していらっしゃる。
たいがいお仕事がらみで機会をいただくんです。新しいことに挑戦できるのはとても楽しいし、可能性を広げるチャンスをいただいているということでもあるので、「自分にできるかな」という不安は常にあるのですが、悩む前に「やらせてください」と言ってしまうんです。
2012年に、テレビのお仕事だったんですけれど、北アルプスの槍ヶ岳に登りました。想像以上にハードで、疲労感もさることながら、最後に頂上をめざすときに高さの恐怖心で動けなくなって弱音を吐いてしまったら、番組ではそこがしっかり使われてしまっていて、自分の弱さが悔しくて……あとで猛烈に反省しました。でも、やっぱり自分の足りない部分がこうして突きつけられ、学ばされているんだろうなと痛感しました。
そのときに頭をよぎったのが、「道」(10頁)の言葉です。〈自分には自分に与えられた道がある。天与の尊い道がある。どんな道かは知らないが、ほかの人には歩めない〉。まさに〈自分だけしか歩めない大事な道〉だったんだ、この経験は大事にしようと思いました。
――山に登りながら、自分の「道」のことを考えられたわけですね。
ええ。道というと、ついゴールばかり夢見てしまいますよね。ゴールも確かに大事だけれど、やっぱり過程が大事だなと思いました。一喜一憂しながら歩むその過程にこそ、人の成長があるのだと実感しました。
「プロの自覚」という言葉に目が覚めた
――いろいろな挑戦をする中で、これからはどういう方向をめざしていきたいですか。
以前、自分にモデルという仕事が合っているのかと悩んだとき、すごく考えさせられたのが、「プロの自覚」(162頁)の文章でした。プロというのはアマチュアとは違って、〈プロとしてのきびしい自覚と自己練磨が必要〉という言葉に、目を覚まされました。「プロとして」という言葉が、私の中に鋭く斬り込んできた感じがありましたね。
この本は、決して甘いだけじゃないんです。スイートチョコレートのような癒し本ではない。ビターな部分もあるし、スパイスも利いていますし、読んでいてピシッと背筋が伸びるような部分もある。心に寄り添ってくれて、たまに活を入れてくれる。大人になると、厳しい言葉で叱ってくれる人があまり周りにいなくなりますが、この本には、自分の心を律してくれるような効果もあります。
ぶれない軸を持ってみずからの道を前進したい
――リーダーシップという感覚で、意識していらっしゃることはありますか。
年齢的にもみんなを引っ張っていくことが求められるようになってきて、もっとリーダー資質を養いたいのですが、なかなかできずにいます。ただ、逃げていてはダメだなと思っています。みんなを引っ張っていくには、やはり視野の広さが必要ですよね。
私が松下幸之助さんの本に深く納得できる理由には、社会に向ける温かな目を感じることもあると思います。自分のことを考えさせてくれるだけでなくて、常に人のこと、社会のこと、国のことを考えていらっしゃる。人との関係の中での自分の立場という、とても基本的なことを思い起こさせてくれるので、広い視野を意識できます。
現代の私たちは、昔の人に比べて自分のことばかり考えるようになっている気がしていて、読んでいると、「そうだ、私は社会の一員としてどんな貢献ができるんだろう」という、社会の中での位置をすごく考えさせられます。そういうところも役に立っていますね。できていない部分もたくさんありますが、ほどほどに省みつつも、後ろを振り返りすぎず、しっかり前を見て、ぶれない軸を持って、自分の道を前進していきたいと思っています。