陰山英男・大人の勉強の必須科目は「お金」
2014年05月23日 公開 2023年02月24日 更新
自分に付加価値をつけるためのお金の使い方
こうして、削れるところは徹底的に削るいっぽうで、書籍には相変わらずお金を注ぎ込んでいました。私が本を買うときは、いつも地元の書店で注文し、学校へ届けてもらっていましたが、その量があまりに多いので、「あの小学校にはすごい教師がいる」と評判になったほどです。
これは、私に付加価値がついたということです。安月給でも月々5万円の書籍代を自己投資していたから、たかだか教師になって数年の若者が「すごい」と評されるようになったのです。
手取りが10万円そこそこなのに、半分近くを書籍代に使うなんて、ほかの人からすれば「ふつうじゃない」と思われるでしょうね。でも、ふつうじゃないことをするから、周囲から一歩抜きん出ることができるのです。
ふつうのことをしていたら、他人と横並びになってしまうし、大勢のなかに埋没するだけ。私はこれまで世間の流れとは真逆のことをするように心がけてきたとお話ししましたが、それはお金の使い方についてもまったく同じです。
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やはり20代のころ、同僚の先生たちとバンドを組んでいたこともあります。これは、「子どもたちの思い出に残る教師になりたい」という気持ちからでした。子どもたちの前で演奏したら、「先生、カッコいいじゃん!」と思ってもらえるんじゃないか。そう考えたのです。
ギターなどの楽器は各自で持ち寄りましたが、ドラムだけは、みんなでお金を出し合って買うことにしました。いちばん安いものを選びましたが、当時の価格で7万円くらいでしたから、割り勘とはいえ、若手教師たちには大きな出費でした。
それでも、子どもたちの前で演奏したら、みんな大喜びしてくれました。
もし、私が「記憶に残る教師」になれたとしたら、それも私に付加価値がついたということです。「ロックをやる先生」というのはめずらしい部類だと思いますが、だからこそ、私はバンドをやる意義があると考えました。
意図的に王道から外れるからこそ、他人と同化せず、その人ならではの価値を生み出せる。やっぱり、他人と同じじゃだめなんですよ。
先ほどの自動車の選び方にしても、当時としては変わっていたと思います。若者にとって、スポーツカーに乗ることが最大のステイタスだった時代です。多少無理をしてでも、見た目のいい車を購入する人がほとんどで、周囲の同世代の人たちは、私が買ったような自動車には見向きもしませんでした。
余談ですが、妻とはじめてデートをしたとき、私はその自動車を恥じるどころか、どれだけ燃費がいいかを延々と語ったため、彼女は「こんなオンボロ車を自慢するなんて、ヘンな人」と思ったそうです(笑)。
それでも私には、早く一人前の教師になりたいという目標がありました。それまでは自分にとって必要なことだけにお金を使い、あとはケチに徹しよう。そう腹をくくったのです。
ですから、お金を使うときは、「なぜそれを買うの?」「なぜそれを使いたいの?」と、たえず自分に問いかけました。それにきちんと答えられない場合は、お金を使う意味があやふやだということです。根拠のないお金はいっさい使わない。私はつねに、自分自身にそう言い聞かせてきました。
のちに、私が「陰山メソッド」を確立できたのも、20代のころに書籍や勉強会といった学習にお金を費やして、教育者としての基礎をつくりあげたからだと思います。もし、このころに私が別のことにお金を使っていたら、現在の自分はなかったでしょうね。
私が冒頭で、なぜ、「お金の使い方や稼ぎ方、殖やし方は、つきつめれば『どのような人生を送りたいか』という問題につながる」と言ったのか、これでわかってもらえたと思います。
<書籍紹介>
英語やお金の教養を磨く陰山メソッド
大人の勉強は実用性がないと意味がない――「役に立つ教養」を身につけるための発想を紹介。<英語><お金>の実践学習法も開陳する。
<著者紹介>
陰山英男
(かげやま・ひでお)
立命館小学校校長顧問、立命館大学教育開発推進機構教授
1958年、兵庫県生まれ。岡山大学法学部卒業後、小学校教員に。「百ます計算」や漢字練習の反復学習法を用いた「陰山メソッド」と呼ばれる独自の理論を築き上げた。2003年に広島県尾道市立土堂小学校校長に就任。2006年より立命館小学校副校長に転任し、現在にいたる。また、文部科学省「中央教育審議会」教育課程部会委員、内閣官房「教育再生会議」委員などを歴任。大阪府教育委員会委員長も務める。
おもな著書に『本当の学力をつける本』(文春文庫)、『親が伸びれば子は伸びる』(朝日文庫)ほか。小学生向けの学習教材や『陰山手帳』(ダイヤモンド社)でも有名。