陰山英男・大人の勉強の必須科目は「お金」
2014年05月23日 公開 2023年02月24日 更新
《PHP新書『人生にとって意味のある勉強法』より》
「お金」に無頓着な日本の大人たち
日本の学校教育には、すっぽりと抜け落ちているものがあります。
それは、「お金」についての教育です。
学校の先生がお金の話をするなんて、意外ですか?
でも、私は、国語や算数を学ぶのと同じくらいの重要科目だと考えています。お金の使い方や稼ぎ方、殖やし方は、つきつめれば「どのような人生を送りたいか」という問題につながります。
たとえば、年収が500万円として、それで書籍を買うのか、趣味に使うのか、定期預金にするのか、株に投資するのか。どれを選択するかで、その人の生き方は確実に違ってきます。
たとえ長期的な目標を立てて、人生のタイムスケジュールを明確にできたとしても、お金がなければ実現できないことはたくさんあります。いくら「英語を効率的に身につけるために、1年に1度は短期留学をしよう」と目標を立てても、そのための資金がなくては、たんなる夢で終わってしまいますよね。
ですから、大人こそお金について勉強すべきだし、現代人が自立した人生を歩むためには必須の教養と言っていいと思います。
必要な自己投資のためだからこその「節約」
私は若いころから、お金と意識的に向き合ってきました」と言うとカッコよく聞こえますが、公務員は安月給だったので、そのなかでどうやりくりするかを考えざるをえなかった、というのがほんとうのところです。ただ、そのおかげで、「自分のめざす人生を送るためには、お金の使い方が重要なのだ」と早くから気づくことができました。
では、私がどのようにお金とつきあってきたのかをお話ししてみましょう。
大学を卒業したばかりの新米教師だった私にとって、当面の目標は、「早く一人前の教師になる」ことでした。そのために、いわゆる「自己投資」を始めました。
まず、お金をかけたのが書籍代です。20代のころは、ひと月に5万円ほどを書籍代に費やしていました。公務員の給与はとくに20代のうちは低く、私も当時の月給が15万円程度でした。諸手当を引かれると、10万円そこそこということも……。そのなかで5万円を書籍に充てるというのは、かなりの出費です。
しかし、いい授業をするために参考になると思えば、どんどん書籍にお金を注ぎ込みました。教育関連の書籍はもちろん、理科の授業に役立つと思えば「Newton」などの科学雑誌を買ったりと、とにかく手当たりしだいに多読を続けました。
また、当時は学校の先生たちが自主的に開催する研究会が盛んだったので、それに出席するための旅費や教材費にもお金を便いました。学校に強制されたわけではなく、有志が集まって開くものなので、必ず出席しなければならないという義務はありません。それでも、一人前の教師になるためには何でも吸収したい時期でしたから、勉強会があると聞けば積極的に足を運びました。
とはいえ、なにしろ安月給ですから、入ってくるお金(=収入)には限りがあります。そこで私は、出ていくお金(=支出)を抑えるにはどうすればいいかを考えはじめました。
つまり、「節約」を始めたのです。
まず目をつけたのが、勉強会への交通費です。当時は兵庫県の山奥にある小学校に勤務していましたが、こうした勉強会はたいてい、大阪や神戸などの大都市で開かれます。そこまで電車で行くと、思った以上にお金がかかってしまいます。
そこで私は、自動車についていろいろ調べて勉強しました。そして、燃費のいい新古車を購入し、高速道路を使わずに行く方法がもっとも支出を抑えられると結論づけたのです。
もちろん、購入資金はかかりますが、長い目で見れば、毎回、高い電車代を払うよりもランニングコストは低いはずだと考えました。それに、車自体は、探せば格安のものがいくらでもあります。
念のために説明すると、新古車とは販売店が購入しただけで、実際はだれも乗っていない未使用車のことです。ただし、制度上は中古車として扱われるので、価格も税金も安い。でも新品の状態なので、故障などのリスクも低いし、長く乗れる。そのメリットの大きさに目をつけました。
さらに私は、各メーカーの車についても調べ上げ、リッター30キロで走る車種を見つけました。当時ではめずらしい乗用車のディーゼル車。いまでこそ技術が進んで低燃費の自動車もたくさん登場していますが、1980年代当時では画期的な燃費のよさでした。
私はさっそく、この車を購入しました。いまふりかえっても、われながら賢い買い物をしたと思っています。
この体験は、私に大きな学びをもたらしました。節約をするために、中古車市場の仕組みを調べたり、自動車の燃費やガソリン価格をもとにコストを計算したりすることで、これまで私のなかにはなかった知恵がついたのです。
逆にいえば、知恵がついたから節約をすることができた。つまり私は、知恵をお金に換えることができたということです。
自分で知恵をつけようと思わなければ、私はずっと高い電車代を払いつづけたうえ、いつか赤字になって、結局は、勉強会への出席をあきらめなくてはならなかったかもしれません。
「やりたいことをやるには、お金について勉強する必要がある」ことを、私は20代にしてはっきりと自覚しました。そして、お金の使い方が自分の人生やキャリアに大きく影響することにも、しだいに気づいていったのです。
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