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会議を効率化し成果を生む3つの条件

齋藤孝(明治大学文学部教授)

2015年03月30日 公開 2024年12月16日 更新

《PHPビジネス新書『 [新版・会議革命]不毛な会議・打ち合わせをなくす技術 』より》

 

会議に「革命」は起きたのか

 『会議革命』を上梓したのは、2002年のことでした。当時、あえて「革命」という強い言葉を使ったのは、諸般の関係で出席する多くの会議に「怒り」に近い不満を感じていたからです。

 どんよりした空気の下、特定の誰かが文書を読み上げるだけだったり、全員が押し黙ったまま気まずい沈黙が続いたり、結局何も決められなかったり、そもそも会議の目的がはっきりしていなかったり……。

 これはエネルギーと時間の壮大な無駄でしかありません。「こんな会議を一掃しなければ、日本経済が内側からダメになる」「世界のスピードについていけなくなる」と本気で心配になったのです。会議は本来、組織の頭脳であり、場合によっては司令塔にもなるべき存在です。世の中の変化に対応するなら、まずここを点検し、機能させる必要があると考えたわけです。

 それから10年以上を経て、案の定、世の中は大きく変わりました。当時が「アメリカ同時多発テロの翌年だった」と考えれば、俄然イメージしやすくなるでしょう。政治、経済、会社のあり方(株主構成や雇用形態など)、社会の風潮、街の風景、手元にあるモバイル機器まで、その変化のスピードはおそらく人類史上最速だと思います(よかれ悪しかれ変わらないものもありますが)。

 もちろん、変化はいまなお進行形であり、何かにつけてますますスピードが求められるようになっています。しかも、この先にどんな変化が待っているのか、なかなか読みにくい状況です。これは、誰もが仕事や生活で日々体感しているはずです。

 一方、会議は変わったでしょうか。

 仕事柄、私は大小さまざまな企業の経営者や社員の方とお会いする機会がよくあります。その際に伺うと、会議に対する意識は以前より高まっているようです。タラタラと時間を浪費することも減ったし、無駄な会議をなくそうという気運もあります。

 ただし、スピードという点ではまだ不十分な気がします。以前にも増して臨機応変かつ効率的な対応が求められているにもかかわらず、意思決定が遅いために、後手に回ったり、せっかくのチャンスを逃したりするケースは少なくありません。つまり、「革命」は道半ばといったところでしょう。

 時代から立ち後れないためには、会議をもっとスピーディでタイムリーにする必要がある。それができる組織とできない組織とでは、文字どおり加速度的に差が開いていくのではないでしょうか。

 

急速な環境変化にいかに対応していけばいいか?

 では、どうすれば時代に合った会議ができるのか。それには、会議以前の問題として、組織ぐるみで以下の3つの条件をクリアする必要があります。

 第1は、普段のコミュニケーションです。当たり前に雑談ができるような関係性がないのに、会議だけ盛り上がるとは考えにくいでしょう。シンと静まり返った職場の会議は、やはり重苦しくなりがちです。

 私はしばしば企業から講演やセミナーの講師を依頼されますが、ここ数年、「職場内コミュニケーションをテーマにしてほしい」というリクエストが圧倒的に多くなりました。それだけコミュニケーションが不足し、しかもそれが業務にマイナスであるとの認識が高まっているということでしょう。会議も、その例外ではないわけです。

 第2は、全員が仕事に対する責任感と当事者意識を持つことです。

 先にも述べましたが、いまは環境の変化が激しい時代です。そこで重要なのは、環境に合わせて柔軟に変化すること。「進化論」を唱えたダーウィンは、「強い種でも、賢い種でもなく、変化に適応した種が生き残る」と述べたと言われていますが、それはまさに今日の会社組織にも当てはまるのではないでしょうか。

 とはいえ、組織が変化するには大変なエネルギーが必要です。まずは、個々人が「現状維持は衰退である」という危機感を持つこと。加えて、「どう変えるか」とつねに考えることも欠かせません。

 世の中の変化を的確に予測することは、よほどの天才でもない限り不可能でしょう。何が起きるかわからない、したがって何が“正解”になるかは誰にもわかりません。かといって過去の。成功モデル々にすがることは、かえって危険です。

 では、組織としていかに適応を図るかといえば、それぞれの現場で多くのアイディアを出し、試行錯誤しながら方向性を選択していくしかありません。ダーウィンの言う「自然淘汰」を大量かつ高速に繰り返していくわけです。

 例えば、選択肢が2~3通りしかなかったとすれば、いずれの道も失敗に終わる可能性は小さくありません。しかし、仮に100通りあるとすれば、そのうち99は失敗に終わっても、残るひとつが成功して組織を救うかもしれない。悪く言えば「下手な鉄砲」ですが、それがアイディアというものです。

 リーダー1人で100ものアイディアを繰り出すのは、まず不可能でしょう。仮に出したとしても、現実に則しているとは限りません。それなら、現場をよく知る者がそれぞれ提案したほうが、よほど確度は高いはずです。それを持ち寄って協議し、知見や知恵を積み重ねて練り上げる場が会議なのです。

 

もはや「カリスマ」1人に頼れる時代ではない

 そしてもうひとつ、組織がクリアすべき条件は、過度な上下関係を取り払うということです。

 組織である以上、縦型の指示・命令系統は不可欠でしょう。組織で決めたことは全員が守り、すべての責任はリーダーが負うのが普通です。その典型が軍隊で、兵士が各自バラバラに行動するようでは“総崩れ”になるだけです。あるいはチームスポーツでも同じことが言えるでしょう。

 ただし、会社組織の場合には少し事情が違います。メンバーに求められるのは「言われた通りに動く」ことではなく、持ち場の中で工夫して最大限の結果を出すこと、そのためにはむしろ組織に働きかけて協力を求めることです。

 ところが、そこでネックになるのがリーダーの度量です。中間管理職者の中には、余計な責任を持ちたくないため、あるいは“上司風”を吹かせたいがために、部下からの提案を快く思わない人がいます。その結果、握り潰されたり、骨抜きにされたりすることもよくあります。あるいは、部下がそういう事態を想定し、提案自体を躊躇するということもあり得るでしょう。

 これはリーダーの資質に負うところが大きいのですが、それだけでは部下は浮かばれません。組織として、何らかの工夫が必要です。具体的な方策は本文に譲りますが、その前に、「アイディアと肩書は無関係」「たとえ平社員でもアイディアを出すことが当たり前」「アイディアは批判するより褒める」といった文化を育てることが欠かせません。

 対照的に、リーダーが優秀すぎる場合も注意が必要です。

 例えば「カリスマ」と呼ばれるような経営者の下では、部下は「言う通りにしていればいい」というマインドになりがちです。その時点で思考は停止してしまうわけで、組織としては意外に脆弱になります。こういう事例は過去にも散見されるでしょう。真の「カリスマ」なら、「アイディアのない者は去れ」ぐらいのハツパをかけてもいいかもしれません。

 繰り返しますが、現代のビジネスパーソンに求められるのは、とにかく個々人が問題発見力と解決力を持つこと。その発露の場が会議ですが、その土壌となるのが職場環境です。

 以上の3つの条件をクリアしておけば、自ずから会議は効率化され、しかもいい結論に至るはずです。

<書籍紹介>

新版・会議革命
不毛な会議・打ち合わせをなくす技術

齋藤孝著

本体価格890円

ツールが発達しても、日本の会議はあいかわらず超非効率。今度こそ「不毛な会議」を日本から一掃すべく、著者の初期代表作を緊急復刊!

 

 

 

著者紹介

齋藤 孝(さいとう・たかし)

明治大学文学部教授

1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、現在、明治大学文学部教授。専攻は教育学、身体論、コミュニケーンョン論。著書に『声に出して読みたい日本語』(草思社文庫、毎日出版文化賞特別賞受賞)、『身体感覚を取り戻す』(NHKブックス、新潮学芸賞受賞)、『読書力』(岩波新書)、『日本語の技法』(東洋経済新報社)、『雑談力が上がる話し方』『雑談力が上がる大事典』(以上、ダイヤモンド社)、『三色ボールペンで読む日本語』(角川文庫)、『5日間で「自分の考え」をつくる本』(PHP研究所)、『プレッシャーに強くなる技術』(PHP文庫)、『1分で大切なことを伝える技術』『すぐに使える! 頭がいい人の話し方』(以上、PHP新書)、『上昇力!』(PHPビジネス新書)など多数。

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