1. PHPオンライン
  2. マネー
  3. 「ウソの経済常識」を信じ込んでいませんか?

マネー

「ウソの経済常識」を信じ込んでいませんか?

高橋洋一(嘉悦大学教授)

2016年01月21日 公開 2022年11月02日 更新

「間違った経済常識」が生んだ「失われた20年」

しかも、もっとひどいことには、一般の人々だけでなく、政策担当者レベルの人まで間違った常識に縛られていることが、日本ではけっこうあるのです。政策担当者が「間違った経済常識」を持っている場合には、国民全体がデメリットを受けてしまいます。それが実際に起こってしまったのが、「バブルについての認識の誤り」と、その後の「失われた20年」です。

前述したように、バブル期の物価を見ると、実は、インフレ率は健全な範囲内に収まっていました。バブル期はものすごいインフレ状態だったと思っている人が多いのですが、それは誤った認識です。バブル期に異様に高騰していたのは、株価と土地価格だけです。バブル期は、「資産バブル」の状態にあったのであり、一般物価は健全な状態だったのです。

ところが、日銀はバブルの状況分析、原因分析を正しくできず、政策金利(当時は公定歩合)を引き上げて金融引き締めをしてしまいました。資産バブルを生んでいた原因は、金融面ではなく、法の不備をついた「営業特金」や「土地転がし」などによる株や土地などの資産の回転率の高さだったのですが、日銀は原因分析を間違えて、利上げという策をとりました。

回転率の高さによって起こった「資産バブル」に対しては、利上げは効果を持ちません。

日銀の利上げは資産バブルの対策としては役に立ちませんでした。

一方で、このトンチンカンな利上げによって叩き潰されたのが、健全な一般物価でした。

以降、日本は深刻なデフレが進み、「失われた20年」を経験することになったのです。

私はアメリカ留学中に、のちにFRB(連邦準備制度理事会)議長を務めたベン・バーナンキ氏(当時プリンストン大学教授)の教えを受けました。彼によれば、「資産価格と一般物価を分けて考えるべき」で、「資産価格が一般物価に影響しそうな場合を除いて、一般物価が上昇していなければ、資産価格が上昇していても金融引き締めをするのはセオリーに反している」とのことでした。しかし、日銀はセオリーに反してバブル退治のために金融引き締めをしてしまいました。

この件に関しては、日銀だけを責めるわけにはいきません。マスコミは公定歩合を引き上げた当時の三重野康日銀総裁のことを、バブルを退治した「平成の鬼平」と呼んで、さかんに持ち上げました。マスコミも含めて多くの人が「バブルだから物価が上がっている。だから日銀が金融を引き締めたのは正しいことだ」という思い込みを持っていたのです。

しかも、この間違った認識はその後もずっと修正されることはなく、日銀は現状維持の金融引き締めを続けて長期のデフレを生んでしまいました。

なぜ日本は「失われた20年」を経験することになったのか。それを理解するには、バブル期についての誤解を解く必要があります。長期不況のつまずきの始まりは、バブルについての認識の間違いです。間違った経済常識は、悲劇的な結果をもたらすのです。このことは、決して忘れてはいけません。

本書『戦後経済史は嘘ばかり』では、戦後から平成までの日本経済の歩みについて、「間違いだらけの常識」をデータ分析に基づいて排し、正しく見ると本当はどうだったのか、わかりやすく解き明かしていきたいと思います。

著者紹介

高橋洋一(たかはし・よういち)

嘉悦大学教授

1955年、東京都生まれ。東京大学理学部数学科、経済学部経済学科卒。博士(政策研究)。1980年、大蔵省に入省。理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣参事官などを歴任。2008年、退官。著書に、『日本人が知らされていない「お金」の真実』(青春出版社)ほか多数。

関連記事

アクセスランキングRanking