ストレス軽減! よく噛む習慣で脳が若返る
2015年05月11日 公開 2024年12月16日 更新
よく噛むことは脳の満腹中枢や摂食中枢に作用することで、肥満の改善、生活習慣病の改善と予防につながることがわかってきました。
メジャーリーガーが試合中にガムを噛むところを見たことある人も多いかもしれません。噛むことはストレスを抑える力をもち、やる気のアップにもつながるのです。
小野塚實氏(おのづか・みのる)が日常生活で簡単にできる健康法=「噛む習慣」を分かりやすく紹介します。
※本稿は小野塚實著『噛めば脳が若返る』(PHPサイエンス・ワールド新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
よく噛むことによる健康効果 「噛むとなぜ健康になるのか?」
このところ、健康に対する意識はますます高まる一方です。高齢化社会の到来がそれに拍車をかけているのはいうまでもないでしょう。さまざまな「健康法」が次から次に登場しているのは、そのことを物語っています。
みなさんのなかにも、いくつもの健康法にトライしたという人が、きっとかなりの数いるはずです。さて、その結果はどうだったでしょう。
「最初は熱心に取り組んだものの、やっぱりつづけるのが大変。結局、あえなく途中で挫折することになってしまった」
おそらくそんな人がほとんどではないでしょうか。ウオーキングに代表されるからだを動かす健康法にしても、食事を中心とする健康法にしても、まさしく「継続こそカ」なのに、つづけるのが難しい、というのが実情なのです。
その最大の理由が「わざわざ、時間をつくって」、あるいは「特定の場所や施設に行って」やらなければいけない、食事に関していえば、「制限や制約が多い」というところにあるのは、いうまでもないでしょう。
その点を踏まえれば、日常生活のなかで「自然に」できる健康法が、継続という面からも、もっとも有効とはいえないでしょうか。 「でも、そんな健康法があるの?」
あります! 食事の際に親から「よく噛んで食べなきやだめよ。しっかり噛みなさいね」といわれた経験は、だれにでも何度となくあると思います。
もちろん、理由のないことではありません。子供を健康にすくすく育てたい、というのは親にとってもっとも切実な願いです。その願いが籠められているのがこの言葉なのです。
江戸時代に書かれた健康指南書ともいえる『養生訓』の著者であり、儒学者で医者でもあった貝原益軒は『日本歳時記』という書物のなかで、こう書いています。
「人は歯をもって命とする故に、歯といふ文字をよわい(齢)ともよむ也」
その意味は「齢〈よわい〉」という字に「歯」が使われていることでわかるように、人にとって健康に生きていくためには、歯で食べものをよく噛むことが何より重要である、ということ。江戸時代の健康法の"大家"のこの指摘は傾聴に値します。
ともすれば、噛むことに無自覚になっているわたしたち現代人は、あらためて噛むことの健康効果を見直してみる必要がありそうです。
よく噛むことで唾液がたくさん分泌され、なかに含まれる消化酵素が十分はたらいて、体内での消化吸収がよくなる。その結果、胃や腸の負担も軽くなり、栄養分も効率よく吸収されて、健康に大きく与ることになる。この流れはだれにでもわかると思います。
しかし、よく噛むことによる健康効果はそれだけにとどまりません。さまざまな分野の研究で、そのことがどんどん明らかになってきています。
食べものを噛むときにはいろいろな筋肉が使われます。咬筋、側頭筋と呼ばれる筋肉がその主役ですが、ほかにも顔の表情筋、首や肩の筋肉などが使われています。それらの筋肉をコントロールしているのは、いうまでもなく脳です。
つまり、噛んで筋肉を動かすことは、そのまま脳の神経を刺激すること、別の言い方をすれば、脳に情報を送ること、になるのです。それが脳の活性化につながることは、説明するまでもないでしょう。
また、わたしたちは食べものを味わって食べます。その際、味覚で感じることはもちろん、歯ごたえや喉ごしといった触覚も刺激されます。さらに、香りを楽しんだり、季節感や盛りつけの美しさに感動したりする。
このように、噛んで味わうという行為には五感が総動員される、といってもいいでしょう。もちろん、よく噛めば噛むほど、五感から脳の神経細胞に送られる情報の量も増えることになります。
いま、噛むことでもっとも注目されているのが、こうした脳に対するはたらきかけです。わたしたちは、実験によってそれを科学的に証明することを試みました。結果はどうだったか?
結論をいえば、噛むことと脳との関係はきわめて深く、噛むことで脳の活性化がはかれる、ということがわかったのです。
噛むことはからだを健康にすると同時に脳を元気にします。日常生活に密着したもっとも自然な健康法、それが「噛む」ことなのです。