60代で74年ぶりの独立系生命保険会社を開業し成功させた起業家・名経営者として、また、稀代の読書家としても知られる出口治明氏。その「マネジメントと教養の原点」は40代にあったという。失敗と挫折を繰り返しながら出口氏が得たものとはなんだったのか。お話をうかがった。(取材・構成:林 加愛 写真撮影:江藤大作)
※本稿は、『THE21』2016年10月号特集「40代を後悔しないため今すぐすべき10のこと」を一部編集したものです。
「アホですね」と言ってくれた部下へ感謝
普通なら引退を考えるだろう年齢になってベンチャー企業を興し、生命保険業界に新風を送り込んだ出口氏。68歳になった今もビジネスの第一線で活躍を続けている。それを可能にしているのが、常に人から学び続ける姿勢だ。
しかし、40代にもなると、自分の欠点を指摘してくれる人は少なくなる。出口氏も40代直前で初めて課長職についたあと、そのことを痛感したという。
「当時僕は、いわゆるマイクロマネジメントをやっていて、部下への指示や確認事項を細かくリストアップした大きな紙をデスクに置いていました。ところが、ある日、外出先から戻ったら、なんと部下の一人がそのメモに消しゴムをかけていたのです。
僕は当然、怒りましたが、その部下は『実は、これまでも時々、コッソリ消していました。それで困ったことがありましたか?』と答えたのです。僕はまったく気がついていませんでした。自分がいかに多くのムダな仕事を部下にさせていたのか、気づかされました。
また、あるとき、部下に『○○は呼ぶと駆け足でやってきて、すぐ対応してくれる。優秀だなあ』と言ったところ、意外な言葉が返ってきました。『出口さんは何も見ていないアホですね。彼は、あなたが将来、偉くなるに違いないと思って、ゴマをすっているだけですよ』。
よくよく観察してみると、確かに彼の言うとおり、僕が呼んだときだけは駆け足でした。上司はいかに騙されやすいか、ということですね」
このように「マネジメントの方法は部下に教わった」という出口氏。40代ともなるととくに、自ら積極的に周りから学ぶ姿勢を見せねばならないという。
「『貞観政要』という唐の太宗・李世民の言行録があります。そこに、リーダーは3つの鏡を持つべきだと書かれています。第1は自分の顔が明るく元気で楽しそうかを確認する本物の鏡。第2は『歴史の鏡』。そして、第3が『人の鏡』です。自分の悪いところや間違いを指摘してくれる部下がリーダーには欠かせない、ということです。
私は『貞観政要』を読んで、『人の鏡』の重要性を知ってはいました。ただ、それは知識としてであって、本当に痛感したのはこうした実際の経験を通してでした。『アホですね』と言ってくれた部下には、本当に感謝しています」
では、どうすればこうした「人の鏡」を得ることができるのか。
「自分から『指摘してほしい』と言うことです。僕は今も、若い部下たちに『僕の間違いはどんどん指摘して』と言っています。こういう部下や後輩がいないと、『裸の王様』になってしまいます