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生き方

人はなぜ、そんなに失敗を恐れるのか

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2017年02月07日 公開 2024年12月16日 更新

 

競争意識の強い人は些細な失敗を怖れる

ある視線恐怖症の人である。

「私は人一倍勉強しようとした。人一倍スポーツしようとした。

でも高校時代数学ができなかった。数学の教師に苛められた。

数学を勉強していると言った。すると『噓をつけ』と言われた。この言葉がトラウマになる。忘れようとしても忘れられない言葉になる」

人よりも優れたいという願望よりも、優れていなければならないという意識が強い。願望がいつしか自分への要請となる。

そして、やはり「人よりも」という競争意識が強い。それも「自分は、人よりも優れていなければ受け入れられない」という気持ちがあるからである。

ありのままの自分が周囲の人に受け入れてもらえると思えば、「人よりも」という競争意識は強くないはずである。

対人恐怖症の人は、小さい頃からつねに人よりも優れていることを周囲の人から要求された。周囲の人というのは殆どが親である。

失敗を怖れる人も、競争意識が強いから、些細な失敗でも怖いのである。

時にはその些細な失敗でパニックになる。

今の些細な失敗で、競争意識を背景として、人から受け入れられないという過去の恐怖感を再体験する。そしてその恐怖感が、今の些細な失敗を大事にしてしまう。

ある視線恐怖症の人である。恋人ができる。その恋人も自分をバカにしているのではないかとしか思えない。

「思えない」ということが強迫的なところである。バカにしているのではないと思おうとしても思えない。

セックスに誘われるが断る。自分が自分でなくなるようで怖い。

失敗を怖れる人が、「今、説明している対人恐怖症の人は、自分と違った人だ」と思えば間違いである。

失敗は実際には怖くもない。失敗しても馬鹿にもされない失敗を、馬鹿にされるとしか感じられない。その強迫性がどこから来ているのか。

実は失敗が怖いのは、失敗すると自分が自分でなくなるような気がして怖いのではないか。

つまり認めてもらいたい人から認められないという恐怖感、不安感である。人に認めてもらえないと、自分が自分でなくなるような気がする。

自分の存在証明は人が自分を認めてくれることにかかっている。

「確かに対人恐怖では、相手に良い印象を与えるか否かによって自己の存在価値がはかられている面が目立っている(1 註)

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抑圧は物事をより大きく感じさせる

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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