受け継がれた技術哲学
「東海道新幹線は、既存の鉄道技術を生かして、現場が創意工夫することによって完成したのです。技師長のわたしは、まとめ役にすぎません」と、島秀雄はたびたび発言している。
「スターを作らず、スターにならず」
島が現役時代に徹底させた技術哲学というべき一節である。
高度化の一途を辿る現代技術というものは、もはや個人の能力というものをはるかに超越している。オレが、わたしが……という名誉心が技術の進歩を停滞させることも少なくない。
現代技術とは、本来、一見無関係に見える個別の技術が呼応し、共鳴しあいながら、国家や体制、個人や企業の欲得を超えて響きあうものである。個人の名誉よりも、人類の知見に貢献せよ……というのである。
この格調の高さのよってきたる所以は、むろん、島秀雄ひとりに帰すべきものではあるまい。
明治・大正期から連綿と継承されてきたこの国のよき鉄道文化というべきものであって、さらにいえば、父の島安次郎から伝えられ、さらに3代目の島隆へと島父子3代に受け継がれてきた香り高い技術哲学と思われる。
プロダクトすなわち工業製品というものは、その設計者に似るといわれる。
蒸気機関車のデゴイチや初代東海道新幹線の0系は、「直角水平主義者」と言われた島秀雄その人によく似ている。どこまでも合理的であることに徹して、自己を主張しない。
世界の鉄道を蘇生させた「SHINKANSEN」が、誕生当初から、その設計デザインにおいて、シンプルな美しさのなかに格調の高さが保たれていることを、わたしたちは誇りにしていい。
高橋団吉(たかはし・だんきち)
1955年生まれ。千葉県出身。株式会社デコ代表取締役。NPO法人むしむし探し隊理事長。著書に『カマキリのエクスタシー』(小学館1996年)『新幹線をつくった男 島秀雄物語』(小学館 2000年 第26回交通図書賞)『島秀雄の世界旅行1936―1937』(技術評論社 2009年 第35回交通図書賞)。東海道新幹線の計画、建設を指揮した第4代国鉄総裁=十河信二を主人公にしたノンフィクション物語を近刊予定(『春雷特急 十河信二物語』)。