「不快」を「快」に変える「荒療治」とは?
かといって、相手が優しくしてくれるのを待つしか方法がないわけではありません。自分の力で「不快→快」へと振り子を動かすことは可能です。
私は以前、「自分の人生の中で、どうしても許せない人に会いに行く」という荒療治を実践したことがあります。相手はかつての上司で、どうしてもそりが合わず、その人のもとで働いている頃は毎日が苦痛でした。
しかしこの記憶を引きずったままでは、私の扁桃核が刺激されるたびに、不快な感情にとらわれ続けることになります。そこで思い切ってその上司に会いに行き、「昔の自分があなたに取った態度を謝りたい」と伝えたのです。そして相手から「君も頑張りなさい」という言葉をもらった瞬間、「自分が生きていくうえで敵はいなくなった」と晴れ晴れした気持ちになりました。
このように、「不快」に立ち向かうことは、強烈な「快」を生み出す最も効果的な方法であり、自分の負の感情をうまくコントロールする手段でもあることを知っておくとよいでしょう。
見た目の自己演出は脳科学的にも効果あり
脳の働きを理解すれば、他人が自分に抱く感情をコントロールすることも可能になります。
脳が「快・不快」を判断する材料は視覚・聴覚・嗅覚などの「五感」です。よって、見た目や話し方を変えれば、自分の印象も変えられます。心理学でも、表情や服装、声のトーンなどで自分を演出する方法が研究されていますが、その手法は脳科学の見地からも正しいと言えます。
とくに視覚的な情報はインパクトが大きいので、相手に安心感を与えたいなら、なるべく扁桃核を刺激しないビジュアルを心がけるべきです。
たとえば、ピンクのネクタイや太いストライプのスーツなどは、人によって好き嫌いが分かれます。これは要するに扁桃核を刺激しやすいアイテムだということ。一方、ブルーのネクタイや落ち着いた無地のスーツを嫌う人はあまりいませんから、こちらは扁桃核を刺激しにくいアイテムということです。よって、お堅い業界の人や相手に警戒感を与えたくない場面では後者を選んだほうが無難。反対に、プレゼンなどで他の人と差をつけて目立ちたいなら、前者を身につければ効果的でしょう。
年齢を重ねると身の回りのことに無頓着になり、「ネクタイやスーツの色なんて何でもいい」と考える人が出てきます。しかしそれは、思考力や創造性を担う脳の「前頭前野」の機能が低下した証拠です。
また、前頭前野の機能が低下すると、人は怒りっぽくなります。論理的思考力が落ちて理性的な判断ができず、感情がコントロールできなくなるのです。
脳の機能を活性化させるには、扁桃核を刺激し、前頭前野にあるワーキングメモリがフル稼働する環境を意識的に作る必要があります。私がお勧めしているのは、年齢の離れた友人を作ること。会社の同僚や学生時代の友人との交流では得られない新しい価値観をもたらし、好奇心を刺激してくれる相手が多いほど、脳の機能は鍛えられます。
「最近感情的になりやすい」という自覚がある人は、ぜひ脳の働きを理解し、脳に良い習慣や行動を心がけてください。
《『THE21』2018年4月号より》