歌人・穂村弘「革ジャンを貸した。傷だらけで僕に返してきた。その友だちに憧れる」
2018年06月26日 公開 2022年08月16日 更新
安全・快適・安心のフィルタが外れた短歌の世界
──それでも、短歌は比較的自由でいられるジャンルなのではないですか。
(穂村)短歌は安全・快適・安心のフィルタリングから外れているからね。そういう短歌のほうが力があると僕は思う。たとえば排泄とか、性とか、死。
このへんのものは我々にとって避けられないわけだけれど、一般的には扱わないのが一番安全で、でも、だからこそぎりぎりでうまく表現できる人は人気がありますよね。
芸能人でもそうだと思うんだけど。死に関する短歌を一つ紹介すると、
お母さんはあんたよりもっと殺してる 巣に水を入れたりもした 田中有芽子
──おお。蟻でしょうか。
(穂村)虫を弄ぶ子供に対して、「お母さん」はまあ普通なら「虫さんにも家族がいるのよ」とか「小さくても命があるのよ」とか言ってたしなめたり諭したりするのかなぁと思うんだけど、これはちょっと予測を超えてる。
──まさかの、張り合ってくるっていう。
(穂村)そう、「お母さんはあんたより殺してる」。このお母さんは是か非か。わかんないんだけど、かっこいいよね。
でも、じゃあおおやけにこんなこと言えるのかっていうと、まずいだろうね。これがOKなのは短歌だからで。社会ががんばってフィルタリングしてきたものを拾ってきてこういう形で見せられると、ドキッとする。