歌人・穂村弘「革ジャンを貸した。傷だらけで僕に返してきた。その友だちに憧れる」
2018年06月26日 公開 2022年08月16日 更新
新入社員と部長と社長だったら、最悪なのは部長
(穂村)そして、非常にはっきりした傾向があって、男か女かでいえば女のほうが、老人か中年かでいえば老人が、若者か中年かでいえば若者のほうが短歌がうまい。つまり中高年の男性の歌が最悪になる。まあ、わかるよね。
──マジョリティですからね。社会のOSが彼ら仕様になっている。
(穂村)そうそうそう。あの人たちが、って僕も中高年男性なんだけど、つまり僕らが社会のフィルターを作ってきたわけよね。そこから遠いところにいればいるほどいい短歌が作れる。
そうは言っても、じゃあ治療中に詩を暗唱する歯医者がいたら仲間だと思ってそこに僕が通うかといったら、絶対行かないね、そんな歯医者には。外科医ならもっと嫌だよね。
──でも昔は、医者だけど詩人みたいな人もいたわけですよね。
(穂村)昔は多かったよね。政治家で文学者とか、大企業の社長だけど詩人とか、そういう人が。社会がそれだけセクシーだった。
でも、今は資本主義の末期で、さっき言ったように、中高年男性でも部長と社長だったら、感受性は部長が最悪。
組織のなかで上に行くほど社会の中枢にいるとはかぎらなくて、社長、特に創業社長は、けっこう詩人だったりするんだよ。社会の制度やシステムができる前やできたばかりだと、詩人度が高くてもおかしくないわけです。
──創造性につながるわけですね。既存のレールやシステムにいかにうまく乗るかということが求められるほど、詩は必要とされなくなる。
(穂村)時代の変化ね。部長とかの心のドットって荒いよね、やっぱり。
──世界に対する画素数みたいなものですか?
(穂村)そう、画素数が細かいと効率は落ちるから。たぶん、荒くしてサバイバルするのね。
電車の中で「女はみんな赤が好きだから」みたいに言ってるおじさんがいたんだけど、一緒にいた新人っぽい男の子が「部長、黄緑が好きな女性もいるんですよ」ってたしなめたら、部長は素直に「そんな女がいるのか!」ってびっくりして。
──まあ、驚くだけ、その部長はまだいいのかもしれないですね。
(穂村)うん。ましだけど、本人かわいそうだよ。だけど、多かれ少なかれ我々の心は部長的にならざるを得ない。この社会に生きているかぎり。