従業員満足度が低い、後継者育成が進まない…人事が変われば経営は良くなる
2018年09月10日 公開 2018年09月10日 更新
グローバル・リーダー育成のカギは「気づき」を与えること
自社の人材の需給を把握したうえで、グローバル・リーダー候補を育成するために、人事が果たすべき役割は何ですか。
グローバルで通用するリーダーシップを身につけなくてはいけないという「気づき」を与えることです。
たとえばハウス食品では、NPO法人クロスフィールズが手掛ける「留職」プログラムを利用して、社員に修羅場体験を積ませています。留職プログラムとは、社員を新興国のNPO法人に数カ月間派遣し、彼らが本業のスキルや経験を活かして、現地の社会課題解決に取り組むという内容です。社員は、自社内での常識が通じない場に身を置いてはじめて、「グローバルコミュニケーションを身につけないと成果を出せないのか」といった気づきを得るのです。
経営戦略に紐づけて人材育成を行っている例として、ジョンソン・エンド・ジョンソンも、参考になるでしょう。同社は、「多様性の中で違いを認めつつ、uncomfortable(心地よくない)なものをビジネスの武器にしていける人材」の育成を目標にしています。
2015年から導入しているのは、若手社員に多様な経験を積ませる「Jラップ」という制度。毎年20名ほど、有望な若手を各事業部から選抜し、人事主導で事業部の異動や職種の転換を図るというものです。このJラップも、他の事業部を巻き込んでいくようなリーダーに必要なマインドセットやスキルについて、深い気づきを得る絶好の場になっているそうです。
このように気づきを得られれば、何を学ぶべきかは、各人がおのずと見つけていけます。自らの内発的な動機によって行動する「インサイド・アウト」の発想を育てられれば、人事がトレーニング内容まで細かく考える必要はありません。
人事施策の効果検証に役立つ2つの指標とは?
――人事施策が有効かどうかを検証する際には、どんな指標が有効でしょうか。
1つは、サクセッション・プランニング(後継者育成計画)です。経営上主要なポジションに対して、後継者候補が充足しているかを見るのです。後継者候補については、通常、現職者の代わりがすぐにできるような「代替者」、あと1、2年の経験を積んだらそのポジションを担ってほしい「本命」、そしてさらに次の候補となる「次世代」の3名を選定できる状態が望ましいと。それぞれの育成状況を見れば、どこにどのような人材リスクがあるか、定量的に把握できます。
2つ目の指標は、従業員満足度といった、サーベイでの結果です。社員がどちらの方向を向いているか、自分たちが高まっているという実感があるのか、人事戦略をどうとらえているか。こうしたことを、人事はサーベイで定点観測しておくべきです。
継続すれば、たとえば従業員満足度が上がると利益率が上がる、もしくは退職率が下がるといったことがわかります。そして、経営指標に人事の指標がどんなインパクトを与えているかが見えてきます。そして、支社や部門間でスコアにギャップがあれば、その差をつくっている要因を探っていく。これにより、各支社や各部門の課題を見抜けるのです。
これらの指標から、経営と人事の整合性がとれているかを確認し続けることは、人事だからこそできる重要なミッションです。著書には、経営戦略から人事戦略を導き出すための実践的なフレームワークと事例を書いているので、人事戦略策定に役立てていただけたら嬉しいです。