おヘソを出していると、カミナリさまにおヘソをとられるよ!
気象学が発達し、現在ではさまざまな気象状況で雷が発生することがわかっている。たとえば「熱雷」は夏に、雷雲などの激しい上昇気流のあるところに発生する。
また「界雷」は、四季を通じて寒冷前線に沿って発生する。さらに、低気圧の域内や台風の中で発生するものが「渦雷」である。いずれにしても「雷は、雷雲の発生によって起こる」というのが共通点だ。
科学で解明される以前は、雷は神の怒りとされていた。すなわち「神鳴り」である。稲光が走り、大きな音がして、時として落雷すれば火事を引き起こす。
豪雨にしても、台風、地震にしても、あるいは大雪にしても、自然災害はどれも恐ろしいものだが、とりわけ雷のすさまじさは、その正体を知らない人たちにとっては恐怖以外の何ものでもなかっただろう。そこで人々は、畏敬の念をもって雷を「雷神」として祀り、崇めたのである。
雷は四季を問わず発生するものだが、幼い子どもたちに向かって、大人たちが決まっていう台詞が「おヘソを出していると、カミナリさまにおヘソをとられるよ」というもの。
子どもたちからすれば、稲光も雷鳴も、そしてカミナリさまも怖いが、おヘソをとられるのはもっと怖い。そこで、あわててお腹をおおうわけだが、もちろんカミナリさまがおヘソをとりにくることはない。
だが、夏の夕暮れ、それまで暑かった一日が暮れようとしているときに夕立があると、気温は急激に下がり、体温を奪われる。その結果、腹部を露出させていた子どもはお腹を冷やして、体調を崩しやすい。そこでお腹をこわさないように注意するために、大人は子どもに「おヘソをとられるぞ」と言うわけだ。
ただし、こんな話もある。
雲の上にいると信じられているカミナリさまだが、土俗信仰では鬼や河童に姿を変えるともいわれる。そして「河童は、無防備な人の臍から体に侵入して、悪さをする」という。つまり、河童を寄せつけないためにヘソを守る必要があるとも信じられたのではないか。
※本稿は、平川陽一著『本当は怖い! 日本のしきたり―秘められた深い意味99』より一部を抜粋編集したものです。