複利は「宇宙で最強の力」
金融資本を運用するときに最初に覚えておくべき言葉が「複利」だ。
アインシュタインは複利のことを「人類最大の発見」「宇宙で最強の力」といったという。相対性理論を打ち立てた天才物理学者がなぜ、畑違いの金融市場のことなどに興味を持つのだろうか。
それは、複利が物理法則でもあるからだ。物理学ではこれを「フィードバック」という。
フィードバックは、出力(結果)の一部を入力(原因)に戻して出力を増幅することだ。といっても、これではよくわからないだろうから銀行預金で説明しよう。
10万円を金利5%で預けるとすると(いまは超低金利だからこれは架空の例だ)、1年後に5000円の利息を受け取れる。
この利息を貯金箱に入れておくと、預金はまた10万円に戻って、2年目の利息も5000円だ。これもまた貯金箱に入れると利息は1万円に増えて、元金との合計は11万円になる。これが「単利」で、お金は毎年5000円ずつ増えていく。
それに対して、1年目の5000円の利息を受け取らずに、そのまま銀行口座に戻すとしよう。すると元金は10万5000円になって、金利は5%だから2年目の利息は5250円になる(105000×0.05)。
これが「複利」で、出力の一部(利息)を入力(元金)に戻すというフィードバック効果を使っている。
単利と複利のちがいは1年目ではたった250円だけど、その差はだんだん開いていって、10年目は単利で15万円、複利なら16万2890円、20年目は単利で20万円、複利なら26万5330円、30年目は単利で25万円、複利なら43万2194円と2倍ちかくになる。
これを100年つづけたとすると、最初の10万円は単利では60万円と6倍にしかならないが、複利なら1315万円と130倍にもなるのだ。
物理学者であるアインシュタインは、フィードバック効果こそが「宇宙で最強の力」であることを知っていた。それが「複利」として金融市場で使われていることに驚いて、「人類最大の発見」といったのだ。
誰でも億万長者になれる社会
「お金持ちの法則」と複利のパワーによって、ゆたかな社会では誰でも億万長者になれる。「そんなバカな」と思うかもしれないが、これはものすごく単純な計算だ。
アメリカの億万長者を徹底調査したトマス・スタンリーというひとは、典型的なお金持ちがニューヨークのペントハウスではなく、労働者階級の暮らす下町のありふれた家に住んでいることを発見した。
彼らは安物のスーツを着て、頑丈だが燃費のいい車を乗り潰し、周囲は誰もこの質素な一家が億万長者とは気づかない。億万長者は六本木ヒルズではなく、君の隣にいる。なぜなら、お金を使えばお金は貯まらないから。
スタンリーが出会ったなかには、3000万円を超える年収を得ながら、本人と家族の浪費癖のためにほとんど貯蓄がなく、将来の不安にさいなまれている医師がいた。
その一方で、公立学校の教師として働きながら50代でミリオネアの仲間入りを果たし、退職後の優雅な生活が約束されている夫婦もいた。資産は収入が多いか少ないかで決まるのではなく、収入と支出の差額から生み出されるのだ。
そのうえでスタンリーは、収入の10~15%を貯蓄に回す倹約をつづけていれば、誰でも億万長者になれるという(正確には「平均年収の倍の収入」が必要だが、これは夫婦2人で働けば達成できる)。
日本では平均的な大卒サラリーマン(男性)の生涯収入は3億~4億円だから、共働き夫婦の生涯家計収入を総額6億円として、そのうち15%を貯蓄すれば、それだけで9000万円だ。仮に貯蓄率を10%(6000万円)としても、年率3%程度で複利の運用をすれば、やはり退職時の資産は1億円を超えているはずだ。
こんな説明をしたところで、「そんなのただの理屈じゃないか」と思うかもしれない。それでは次のようなデータはどうだろう。
アメリカの人口は3億2500万人で、世帯数は1億5000万だ。そのうち上位10%超5%以下の(富豪ではない)富裕層の平均世帯所得は1600万円(2014年)、上位10%超1%以下の平均純資産額は1億4000万円だ(2012年)。
上位10%超に入るボーダーラインは年収で1300万円、資産で7200万円となっているから、アメリカでは10世帯に1世帯が所得や資産でこれよりゆたかだということになる(1ドル=110円で換算)。
一方、日本ではどうだろうか。
総務省統計局の家計調査報告(2017年)によれば、2人以上の勤労世帯のうち上位10%超の平均年収は1441万円だ。
スイスの大手金融機関クレディ・スイスのレポート(2018年)では、資産額100万ドル(約1億1000万円)を超える富裕層の人数は、日本はアメリカ、中国に次いで世界で3番目に多く271万5000人となっている。
日本の世帯数は約5300万だから、(ミリオネアが世帯主だとして概算すると)全世帯の5.1%、20世帯に1世帯が「ミリオネア世帯」ということになる。「億万長者」は、じつはものすごくたくさんいるのだ。
アメリカやヨーロッパ、日本などゆたかな先進国に生まれた幸運を活かすならば、運や能力に恵まれていなくても、努力と倹約だけで誰でもミリオネアになれる。