ホモ・サピエンスの生存戦略は「群れること」だった?
世の中は「強者が生き残り、敗者は滅びていく」弱肉強食の世界だと考える人が多いだろう。だが、植物学者の稲垣栄洋氏によれば、生物の歴史ではむしろ「強者が滅び、弱者が生き残ることが繰り返されてきた」という。
その象徴とも言えるのが、現生人類よりはるかに能力の高かったネアンデルタール人が滅び、ホモ・サピエンスが生き残ったことなのだという。「弱者こそが生命史を育んできた」というユニークな視点から新著『敗者の生命史38億年』を上梓した稲垣氏に、その理由をうかがった。
アフリカの分断で危機に陥った「西側のサル」
人類の起源はアフリカ大陸にあると言われている。
どのようにして、人類が生まれたのかは、未だ謎に包まれている。しかし、一説にはアフリカ大陸で起こった巨大な地殻変動が関係していると考えられている。
マントル対流によってアフリカ大陸は大きく突き上げられて隆起した。こうしてできたのが、大地溝帯である。
大地溝帯は、アフリカ大陸を東西に分断してしまった。そして、大地溝帯の西側はそれまで通りの森林が残ったのに対して、東側では雨が降らなくなり、森林は乾燥した草原へと姿を変えていったのである。
大地溝帯の西側では、サルたちは昔ながらの豊かな森で暮らすことができた。しかし、森林が次第に減少していった東側のサルは大変である。森で守られていたサルたちにとって草原は、棲む場所も食べるものもなく、肉食獣から逃げる木々さえもない危険な場所である。
草原で、サルはか弱い存在である。そんなサルたちが、どのようにしてこんな過酷な環境を生き抜いたのだろう。すべては謎である。
しかし、サルたちは滅びることなく、命をつなぎ、やがてヒトへと進化を遂げていくのである。
サルからヒトが生まれたのは、700万年前~500万年前のことだと考えられている。
厳しい環境を生き抜いたヒトは、二足歩行や道具を使うことなど、それまでの動物とは異なる能力を発達させていった。
そして、「知能」という諸刃の剣を手に入れるのである。