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社会

「明らかに能力の劣った」人類が、ネアンデルタール人に勝てた理由

稲垣栄洋(生物学者)

2019年04月11日 公開 2023年01月10日 更新

力に優れ、知能も高かったネアンデルタール人はなぜ滅びた?

ネアンデルタール人とホモ・サピエンスを比較すると、ネアンデルタール人の方が優れていたと言わざるを得ない。

ネアンデルタール人は強靭な肉体と強い力を持っていた。しかも、脳容量もネアンデルタール人の方が、ホモ・サピエンスよりも大きかったと言われている。ネアンデルタール人はホモ・サピエンスに勝る体力と知性を持っていたのである。

しかし現在、ネアンデルタール人は滅び、今、世界で繁栄を遂げているのはホモ・サピエンスたる私たちである。

 

「弱いものほど群れる」が、実は正解?

ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの運命を分けたものは何だったのだろう。

ホモ・サピエンスの脳は小さいが、コミュニケーションを図るための小脳が発達していたことがわかっている。

弱い者は群れを作る。

力の弱いホモ・サピエンスは集団を作って暮らしていた。そして、力のないホモ・サピエンスは自らの力を補うように道具を発達させていったのである。

ネアンデルタール人も道具を使っていたが、生きる力に優れた彼らは集団を作ることはなかったと考えられている。そのため、暮らしの中で新たな道具が発明されたり、新たな工夫がなされても、他の人々に伝えることはなかった。

一方、集団で暮らすホモ・サピエンスは新たなアイデアを持てば、すぐに他の人々と共有することができた。時には別の誰かがそのアイデアをさらに優れたアイデアに高めることがあったかも知れない。こうして、集団を作ることによって、ホモ・サピエンスはさまざまな道具や工夫を発達させていった。

そして、結果として能力に劣ったホモ・サピエンスがこの地球に残ったのである。

『敗者の生命史38億年』(PHP研究所)より一部抜粋

著者紹介

稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)

植物学者

1968年静岡県生まれ。静岡大学農学部教授。農学博士、植物学者。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て現職。主な著書に『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『植物の不思議な生き方』(朝日文庫)、『キャベツにだって花が咲く』(光文社新書)、『雑草は踏まれても諦めない』(中公新書ラクレ)、『散歩が楽しくなる雑草手帳』(東京書籍)、『弱者の戦略』(新潮選書)、『面白くて眠れなくなる植物学』『怖くて眠れなくなる植物学』(PHPエディターズ・グループ)など多数。

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