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経営破たん後、JALをV字回復に導いた 「リーダー教育」のリアル

上野明、川名由紀、宍戸尚子

2019年07月05日 公開 2019年07月05日 更新

<<2010年1月の経営破たん後、日本航空が血のにじむ再建計画の実行とともに取り組んだのは、「リーダー教育」でした。社長以下、役員、部長が集中して、短期間で稲盛和夫氏の経営哲学を学びとり、意識改革を成し遂げたことで、経営のⅤ字回復を図ることができたのです。

その後、2012年9月には東京証券取引第一部に再上場を果たし、直近の2019年3月期の業績でもグループ全体の売上高は1兆4,872億円、営業利益は1,761億円、営業利益率は11.8%。世界の航空会社でもトップクラスの経営体質を誇り、会社の雰囲気はがらりと変わりました。

以下、会社が危機的な状況だった当時、「リーダー教育」を担う「意識改革推進部」のマネジャーだった上野明氏と、ともに奮闘した川名由紀氏、さらには現在、「リーダー教育」を担う統括マネジャーの宍戸尚子氏に、同社の「リーダー教育」の過去、現在、未来の話を伺います。>>

 

「マネジメント教育」と「リーダー教育」の根本的な違い

――日本航空(以下、JAL)は経営破たん後の再建にあたって、まずリーダー教育に取り組まれたと聞きました。

上野 当時会社では、経営再建を成し遂げるに際し、さまざまなリストラ計画、大胆なコストカットを実行せざるを得ませんでした。いわゆる「外科手術」です。ただ、それだけでは組織が疲弊したままで回復できない。働く人の心の快復が必要で、「内科治療」をして体力を強化する必要があったのです。そこで、あえて混乱を極めていた2010年6月からスタートさせるという、大西賢社長の決断がなされました。

――当時、御社におけるリーダー層とは、どのような職制の方だったのですか?

上野 じつは当時、明確に「ここがリーダー層」という感覚は、わが社にはなかったのかもしれません。マネジメントとリーダーの境目が、いまほど明確ではありませんでした。

経営再建にあたって京セラの幹部だった大田嘉仁氏がJALに専務として入ってこられましたが、いまでも頭に残っているのが、「リーダー教育をやる」と言われたときのことです。私も含めた数名が「マネジメント教育じゃないんですか」と聞き返すと、「そうではない。リーダー教育だ」とおっしゃる。なぜそこまで「リーダー」という言葉にこだわるのか、最初はまったく意味がわかりませんでした。

――「リーダー」という言葉の意味が、じつは重要だということですね。

上野 マネジメント教育としては、人事考課のつけ方、労務対応やコンプライアンスの話、あるいは進捗管理の仕方や、MBOの立て方などを学ぶ機会は、これまでもありました。そこで、リーダー教育と言われても、それ以外の何を学ぶのか、見当もつかなかったのです。

――いまのお話はとても重要ですね。かつての御社に限らず、マネジメントとリーダーの区別がついていない会社は、かなり多いのではないでしょうか。

整理しますと、マネジメントの仕事は、自らの管轄する部や課など、狭い限られた範囲の部下を管理・監督することですね。一方でリーダーとは、どのような仕事をする人のことを指すのでしょうか?

上野 われわれが、京セラの方々に教わったのは、「自分の所属する部門の利益よりも、もう少し横に責任の領域が広がる感覚で、会社全体によかれと思うことを何か選択していく人」「部下に飯を食わせる、路頭に迷わせないと考えられる人」「自分だけでなく、自分のチームも一緒に考えられる人」「あの人についていこうと、部下に思われるような人」ということです。

さらに当時の稲盛和夫会長からは、「リーダーは知識や見識を持っているだけではだめだ」「たんに目先の仕事ができるだけでもだめ。人格を高めることが大切」という話を伺いました。

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