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脳だけが知る「好き」や「幸せ」の正体 “言葉にならないキモチ”の可視化はどこまで進んだか

茨木拓也

2019年12月04日 公開 2023年03月02日 更新

9割の人が、自分の「選んだ理由」を言葉で説明できない

多くの企業は、消費者に選んでもらえるように、製品の品質設計や広告デザインに多大なコストを払っています。そこで知りたいのは、「どうすれば選んでもらえるか」「なぜ選んだのか」といった情報です。

ただ、自分で一番最近買ったものを思い出してほしいのですが、それを買った理由をあなたは説明できるでしょうか? そして、それは本当に正しい理由でしょうか?

こんな実験があります。男性被験者を実験室に呼んで、女性の顔写真を2枚提示し「どちらが好みか?」と尋ねます。その後、選んだほうの女性の写真を手元に渡して、「なぜ選んだのか? どういうところが好きか?」と尋ねます。

これだと、ただの被験者の女性の好みを調べるような実験に思われそうですが、この実験にはひねくれているところがあります。じつは、実験者がマジシャンで、被験者が選んだあと、手元に渡す際にわざと選んでないほうの顔写真を渡すのです。

「えっ、こっちは選んでないです」と言いそうなものですが、じつに9割程度の被験者は、差し替えられた直後にその事実に気づけないという結果になりました。「イアリングが似合ってて」とか、もともと選んだ女性の特徴ですらない理由を述べ始めるのです。

これは「選択盲」と呼ばれ、「選んだ」という事実だけでなんとなく好きな理由を答えられてしまう、何なら本当にちょっと好きになってしまうという現象です。

ここで興味深いのは「“選択した理由”を意識にのぼる言葉で尋ねても、それは本当の理由ではなさそう」ということです。消費者やアンケートモニターの人たちも、決して悪意を持って嘘をついているわけではありません。「なにに、どのくらい価値を感じて選んだか」といった情報は、意識に表出させ、言葉として伝えるのが難しいのです。

では、どうすればいいのか。脳を見ることが、そのヒントになるかもしれません。

 

口コミよりも正確? 脳の活動から売上を予測

2012年に発表された研究では被験者に、脳をfMRIでスキャンしながら無名のインディーズバンドなどの曲を何曲も聞いてもらい、好ましさを最高☆5つでレイティングしてもらうという実験を行いました。

実験から3年後の売上枚数を見てみると、残念ながら被験者のレイティングと相関はまったくありませんでした。一方で、脳の「側坐核」という価値をコードしていると言われている脳の領域の活動強度は、売上と(微弱ながら)相関していたのです。

意識のうえでの音楽の評点は、マーケット全体の成功を予測するものではない。けれど、脳に表現されている情報を見れば、「アウトオブサンプル」つまり被験者の枠を超えて、社会集団全体の価値表現(曲の売上)を予測できるかもしれない。

ここに1つ、脳科学を実事業に取り入れる価値がありそうです。潜在的に脳に存在する、意識はできない言葉にはできないけど、購買行動に影響を与える価値表現や情報表現。それらを定量的に理解するツールという側面です。

そもそも、人を対象とした科学として「被験者がこう言っていました」だけでは客観性に欠けるので、潜在的な脳の情報処理をも含めた形で、各種行動・神経データを利用するのが脳科学という学問分野の特徴です。そうしたアプローチ自体が、ビジネス、特にユーザーの製品評価やニーズ調査においてもパワフルに力を発揮します。

このような消費者の潜在的な価値評価プロセスを脳計測などで評価しようとする分野は「ニューロマーケティング」だとか「コンシューマーニューロサイエンス(消費者神経科学)」と言われています。

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