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社会

「人を殺すのは人であって銃ではない」 アメリカで銃規制が進まない4つの理由

西山隆行(成蹊大学法学部教授)

2020年02月27日 公開 2022年01月26日 更新

 

全米ライフル協会(NRA)という強力な組織

銃規制が進まない三つ目の理由として、銃規制反対派の政治力が強いことがある。銃規制反対派の代表的機関に、全米ライフル協会(NRA)が存在する。NRAのスローガンは「人を殺すのは人であって銃ではない」である。

人を殺す方法はたくさんあり、ナイフでもコンパスでも鉛筆でも、頸動脈を刺せば人は死ぬかもしれない。だが、その時に鉛筆を悪と見ることはなく、悪いのは刺した人間だと考えるのが一般的だろう。

ならば銃も同様で、銃で死ぬ人がいても、銃ではなく銃を使った人間が悪いというのがNRAの考え方である。そして銃による犯罪を減らすためには、より多くの人に銃を持たせ、銃の使い方の教育をすることが重要だと主張している。

NRAは公称500万人の会員を擁し、圧倒的な組織力と資金力を持っている。そして、アメリカの州単位だけではなく、大半の市や町にNRAの組織が存在する。それら自治体で、世話役となる人物がその地域の会員を取りまとめており、組織間のネットワークが構築されている。この人員の多さと組織力、資金力がNRAの政治力の強さの理由の一つである。

NRAは政治上の立場が強硬ながらも現実的であることも、その強さの理由となっている。

日本ではNRAは徹底的に銃規制に反対する過激派だというイメージを持つ人も多いが、アメリカ国内で銃規制に反対する組織の中ではNRAは実は穏健派である。

例えば、銃規制反対派の中には、個人で大量破壊兵器を持っても構わない、殺傷力の高い連射可能な銃を持つべきだ、などと提唱する組織も存在する。そのような組織は、既存の法律は守らなくてもよい、自分たちの大義の方が正しい、という立場をとることがある。

それに対し、NRAは既存法規の順守を掲げる。すなわち、NRAは新たな銃規制を設けることには断固として反対するが、今ある銃規制は守るという立場なのである。そのため、現職政治家と関係を保つことも可能で、政治家からすればNRAと敵対する必然性はないということになる。

NRAの選挙支援策が巧みであることも重要である。メディアでは、NRAは共和党の強固な支持母体だと報じられることがある。

確かにNRAが民主党候補より共和党候補を推薦することが結果として多いのは事実だが、共和党を支持することを当然としているわけではない。例えば、2016年と2020年の大統領選挙で民主党候補になろうとしたバーニー・サンダースはNRAと関係が深く、NRAが出す信頼できる政治家ランキングで同率1位となっている。

NRAは政党とは関係なく、現職議員がNRAの方針を全面的に支持していればその現職議員を支持する、そうでなければその対立候補を無条件に支持するのである。

サンダースは自称民主社会主義者で左派の政治家だが、彼が連邦議会の選挙で初当選したのはNRAのおかげだった。その選挙ではサンダースは銃規制をするべきだと言っていたが、彼の対立候補であった共和党の現職議員がNRAの方針に反するメッセージを出したため、NRAがその共和党議員ではなくサンダースに投票するよう呼び掛けたのだった。サンダースはそれ以降立場を変更し、銃規制反対派となっている。

このように、NRAは、現職議員にはNRAの方針に全面的に賛同することを要求し、そうでなければ対立候補を応援するというメッセージを出している。

アメリカでも銃犯罪が問題になっている地域は日本で思われるほど多いわけではなく、そのような平穏な地域の議員にとっては銃規制は重要争点ではない。

それゆえ、強い信念を持って銃規制を推進すべきと考える議員以外の議員にとってNRAは、彼らの方針に賛同さえしていれば自分を支援してくれるありがたい存在なのである。

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銃規制推進派

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