”国の借金”が増えぬ「子ども国債」が少子化日本を救う
2020年10月20日 公開 2024年12月16日 更新
野党合流新党の「立憲民主党」に参加を見送った国会議員たちによって新たな「国民民主党」が結党された。政策提案型政党を掲げるが、代表に就任した玉木雄一郎衆院議員は人口減少という国難にどう向き合うつもりなのか。
新著『未来を見る力』(PHP新書)を上梓した人口減少対策総合研究所の河合雅司理事長との対談で、具体的アイデアや政権・与党との関わり方について語った。
日本を守る国家観を打ち出す野党めざす
【河合】 菅義偉政権が誕生する一方で野党の再編が進み、政界が大き始めています。そうした中で、玉木さんが率いる国民民主党は小世帯での船出となりましたが、どんなポジションの政党を目指していくのでしょうか。
【玉木】 日本は1994年の小選挙区制導入以降、二大政党制をめざしながら、民主党の失敗もあってなかなか実現していません。しかし、私はいまでも二大政党制は可能だと考えています。
世界の政権を見ても、価値観の多様化とともに小党乱立や連立政権が増えており、一党の長期支配はもはやいまの時代にそぐわない。
国民民主党と立憲民主党の合流時点で当然、望ましいのは大政党の誕生でした。しかしどうしても政策や理念で譲れない面があり、議員の判断と多様性を認めつつ各党が並存するのがベストと考え、8月19日の両院議員総会で分党を決定しました。
新・国民民主党に残った議員の共通点は、政権与党の政策に反対するだけではなく、具体的な解決策を出して日本の役に立とうすること。たとえば、コロナショックへの対応策としてわれわれが提案した10万円の定額給付金や、家賃支援がそうです。改革野党の政策案がようやく実績を挙げた例として、われわれも自信を深めています。
その直後の解党は正直、残念ではありましたが、政策提案型の路線が正しいことを確信し、継続を望む議員と行動を共にするのが筋だと思った次第です。たとえ数は小さくとも、政策を実現する改革中道勢力として存在感を示したい。与党にも野党にも是々非々で向き合う、新たな政治スタイルを確立していきます。
とくに、従来の野党は「外交や安全保障政策に現実味がない」と批判されてきました。われわれは戦略的外交や安保政策の裏付けとして、日本を守る国家観をつねに打ち出せる野党でありたい。
日本を取り巻く安全保障環境を見ると、尖閣諸島の問題一つを取っても自民党だけでは解決できない。「数こそ力」といわれる永田町にあって、数だけではどうしようもない問題が次々と明らかになっています。数ではなく質を高め、知恵を出す野党との論戦が重要なのではないでしょうか。
「コドモノミクス」が日本経済を救う
【河合】 私は長年、新聞社の政治記者を務めてきました。かつての自民党は幅広い政治スタンスを包含し、なかには少数意見を唱えて「党内野党」の役割を果たす議員もいました。しかし第二次安倍政権以降、党内での議論が徐々に薄れてしまい、有力議員の方針に皆が従う風潮も見られました。
自民党内で政策議論が十分にされなくなったなら、民主政治自体が機能しなくなります。国民の選択肢を広げるためにも、新たな国民民主党には政策について鮮明な「軸」を打ち出してもらいたいと考えます。
【玉木】 おっしゃった「軸」を打ち出すうえで、この国の最大の課題は「少子化」に伴う経済の落ち込みだと考えています。具体的な経済対策としては、金融緩和と財政出動が必要です。
安倍政権が行なった財政出動との違いは、安倍政権は大企業を援助して全体への波及効果を促すものでした。しかし、中小企業や大多数の国民はほとんど恩恵を受けなかった。政策の順序が逆で、大企業ではなく、まず家計を助ける財政出動に切り変えなければいけません。
家計と消費が上がらないかぎり、サプライ(供給)サイドの企業を強めても、モノが売れず景気が戻らず、企業業績も上がらない。したがって賃金も上がらず、お金も回りません。
とくにいま、社会保険料の負担増などにより、子育て世帯の可処分所得が減っています。一般家庭にとって、第二子、第三子を持つことはもはや「贅沢」になってしまっている。国立社会保障・人口問題研究所の調査では、夫婦が望みながら子どもを儲けない理由の74%は「経済的理由」によるものです。
そこで求められるのは、子育て世帯の可処分所得を増やす「コドモノミクス」と私が呼ぶ政策です。コドモノミクスは少子化対策と同時に、最も有効な経済対策になると考えられます。財源には国債発行を充てる。日本では「建設国債」の発行が財政法で認められています。これは日本の高度成長時、インフラの建設と整備が急務だったからです。
いま日本の喫緊の課題は、何といっても子どもを増やすこと。したがって、財政法を改正して「子ども国債」の発行を認めることは決して間違っていません。
国債発行と聞くと「国の借金を増やす」と懸念する方もいますが、「子ども国債」の最大のメリットは「受益者と負担者が一致すること」です。まず先にベネフィット(便益)を子どもに託し、のちに納税というかたちでリターンをもらう。
財政には「ワイズボロウイング(wiseborrowing=賢く借りること)」の発想も大事でしょう。企業にも同じことがいえますが、将来、付加価値を生むことが明らかな対象ならば、借金は必ずしも否定されるものではない。
少なくとも65歳人口がピークに達する2040年までは、戦略的な国債発行は認められるべきだと思います。年間5兆円、20年間で100兆円ですが、コロナ禍対策に100兆円を出せるのであれば、少子化にも同等の対策を行なって然るべきでしょう。
【河合】 「子ども国債」というのは面白いアイデアだと思います。確かに子どもは成長するので受益する人と負担する人は同一人物となりますね。単に将来世代に負担をツケ回すわけではない、というのはその通りです。これまでの少子化対策は「子育てと仕事の両立」ということで、親の働き方支援に重点が置かれてきました。
だが、出生数は減り続けており、成果が上がっているとは言えません。政府は政策を転換するときです。私は、世帯の子供数が増えるほど経済支援を手厚くする「多子加算」を主張してきましたが、こうした政策に踏み出すべきだと思います。「子ども国債」はその財源にもなりますね。