生物は気の遠くなるような長い時間、生存を賭けた進化と淘汰を繰り返し続けている。それはリアルタイムでも進行中だ。
静岡大学農学部教授で生物学者の稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)氏は、そのプロセスにおいて、「ナンバー1しか生き残れない」と語る。そして勝ち抜いてきたそれらの種の「生き残り戦略」はそのまま今を生きる私達に様々な示唆を与えるという。
本稿では、稲垣栄洋氏の新著『Learned from Life History 38億年の生命史に学ぶ生存戦略』より、イルカの進化の過程に触れつつ、サメとは何が違うのかについて触れた一節を紹介する。
※本稿は稲垣栄洋著『Learned from Life History 38億年の生命史に学ぶ生存戦略』(PHP研究所)より一部抜粋・編集したものです。
ブルー・オーシャンへの回帰
海で生まれ育った生命にとって、「大地」という環境は、まったく新しい価値を持つブルー・オーシャンだった。
しかし、新たに創造されたブルー・オーシャンは、後発の企業が参入し、やがては激しい競争の起こるレッド・オーシャンとなることが知られている。ブルー・オーシャン戦略は常に新しいブルー・オーシャンを作り続けることを宿命づけられているのだ。
生命が見いだした「大地」というブルー・オーシャンにもさまざまな生物が進出し、進出した生物はさまざまな進化を遂げて、生命にあふれる環境となっていった。やがて、そこは激しい生存競争が繰り広げられるレッド・オーシャンに変貌していったのである。
生き物にとってのブルー・オーシャンは、何も新しい場所だけではない。
陸地に上陸し、陸地で進化をした生物たちにとっては、海は過去の遠い記憶の残る古い場所ではなく、もはや新しい環境になっていた。
長い時を経て、陸上に暮らす生物にとって、海こそが文字どおりブルー・オーシャンとなったのである。
脊椎動物は、魚類から両生類へと進化し、やがて水辺を離れ、爬虫類や哺乳類へと進化を遂げた。爬虫類や哺乳類は、陸地の生き物である。その哺乳類にとって、「海」は未知なる環境であった。
生命に満ちた陸地は、生物が暮らすのに快適な環境となったが、ライバルになる生物も多い。そして、そこでは激しい生存競争が繰り広げられていた。
そんな競争に敗れ、ライバルや敵のいない海へと追いやられていった哺乳類もいたのである。