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「イルカは哺乳類、サメは…?」全く違う生物はなぜ“似た姿”に進化したのか

稲垣栄洋(生物学者・植物学者)

2020年11月22日 公開 2022年08月08日 更新

 

波打ち際から海中へ...恐竜が絶滅しても、イルカやクジラの祖先は生き残った

現在、海の環境にもっとも適応している哺乳類は、イルカやクジラの仲間である。

イルカやクジラの祖先は、インドヒウスという小さな生き物であった。この生物はカバの祖先としても知られている。インドヒウスが進化をする中で、カバやイルカやクジラへと進化を遂げていったのである。

やがてイルカやクジラの祖先は、波打ち際をニッチ(※編集部注 その生物にとって、ナンバー1になれるオンリー1の場所のこと)とするようになり、水陸両生の体を発達させる。

しかし、新たなニッチを求めたのか、あるいは波打ち際というニッチさえ追いやられたのかはわからないが、イルカやクジラの祖先は海中生活をする動物へと進化してゆくのである。

恐竜の時代には、どう猛な首長竜などの海竜が海を支配していたが、恐竜が絶滅した後には、首長竜も滅び、海の中には天敵は少なかった。

ちなみに、首長竜も恐竜の仲間のような感じがするが、現在では首長竜は爬虫類に近い性質であったことが明らかとなっており、温血で鳥に近い性質を有していた陸上の恐竜とは違う仲間に分類されている。

恐竜が滅びると、首長竜などの海竜もまた、絶滅をした。そのニッチに、イルカやクジラは入り込んだのである。

 

姿は似ていても「イルカは哺乳類で、サメは魚類」

こうして、海の中ではイルカやクジラが進化を遂げた。そのうちイルカは「水中を自在に泳ぐ哺乳類」というナンバー1を手にしている。

イルカはサメによく似た姿をしている。イルカは哺乳類であるのに対して、サメは魚類である。まったく違う仲間なのに、よく似た形をしているのである。

これは「自在に泳ぎ回る」ことに適応して進化をした結果、よく似た形に進化をしたのである。

魚類と哺乳類とは、まったく別の進化の道を進んでいる。これほどの、まったく違うアプローチでも、同じ答えにたどりつく。つまり、泳ぐのに適したベストな形というのは、「答えがある」ということなのである。

異なる進化を遂げた生物が、よく似た形にたどりつく進化を「収斂(しゅうれん)進化」という。イルカとサメは収斂進化の例である。

ちなみに恐竜の時代には、爬虫類の仲間のイクチオサウスルが海の中を泳ぎ回っていた。

このイクチオサウルスは、イルカとそっくりな姿をしている。また、メトリオリンクスというワニの仲間もひれや尾びれを持ち、体のうろこもなくなって、まるでサメやイルカのような姿で海の中を泳いでいた。

魚も哺乳類も、爬虫類も、自由自在に素早く泳ぐというニッチに対しては、よく似た形に変化をしている。

「目指すべきものが同じであれば、最終的に同じ答えにたどりつく」

収斂進化が示すものは、ビジネスにおけるブルー・オーシャン戦略にとっても示唆的である。

イルカはサメを模倣したわけではないが、もし、イルカが自由に自分の形をデザインできるとしたら、サメの形をマネするのが早い。

それでも、「自在に泳ぐ哺乳類」と「自在に泳ぐ魚類」はジャンルが違う。もっとも魚類と哺乳類の違いがあっても、ニッチが重なれば競争が起こるが、魚類と哺乳類というもともとの性質の違いを活かして、ニッチを棲み分けているのだろう。

「目指すべきもの」があるのであれば、異なるジャンルや異業種に求めるのが近道ということになるのだろう。

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