公園が楽しくなかった「目の見えない息子」と「運動が苦手な父親」のその後
2021年03月08日 公開 2023年01月06日 更新
自分の「弱み」のために、自分の「強み」を使ってみた
直感的に、思ったんです。「運動音痴」という言葉が良くないな、と。
「僕、運動音痴なんです」と勇気を振り絞ってカミングアウトしても、「なるほど。じゃ勉強がんばってね」などと返され、事態が一向に改善されません。
そして、閃きました。「運動音痴」というネーミングを変えられないか。運動音痴という自分の「弱み」のために、コピーライティングという自分の「強み」を使ってみることにしたのです。
そして、「スポーツ弱者(Sports Minority)」という言葉を考えました。すると、なんということでしょう。なんらかの外的要因で、やむを得ず「スポーツをできない状況に陥ってしまった人」に見えてきます。
息子だって、同じくスポーツ弱者です。目が見えないと、どうしてもできるスポーツは限られます。「僕はスポーツ弱者なんだ」。そう口にすると、世界が変わる予感がしました。
運動が苦手でも、目が見えなくても楽しめる、まったく新しいスポーツ。既存のスポーツのように勝利至上主義だけじゃない、だれもが楽しめるようなスポーツ。そんなスポーツがあればいいんじゃないか──。
そして2015年、自分という弱者救済のために「世界ゆるスポーツ協会」を立ち上げました。
たとえば、「ハンドソープボール」。手につるつる滑るハンドソープをつけてハンドボールをすると、プレーする全員がボールを次々に落球するほど下手になり、運動音痴の人でも日本代表選手と同じレベルで戦えるようになります。
「イモムシラグビー」は、イモムシ型のウェアを着て、「這う」か「転がる」しかできない状態で行うラグビー。すると、普段は車イスで生活をしている障害者の方が健常者より早く動ける。車イスに乗っている人は、普段から自宅で手の力だけを使って体を動かしているからです。
ほかにも「ベビーバスケ」は、強い衝撃を検知すると「えーんえーん」と赤ちゃんのように泣いてしまうボールを使います。すると、球技のうまい人ではなく、「母性のある人」のほうが有利になる。
そのどれもが、簡単に言うと「勝ったらうれしい、負けても楽しい」「運動音痴の人でもオリンピック選手に勝てる」「健常者と障害者の垣根をなくした」新しいスポーツで、これまでに90競技以上を考案して、10万人以上の方に体験してもらいました。
そして、木村拓哉さんやKAT-TUNの中丸さんといったタレントのみなさんにも、メディアで挑戦していただけるまでのエンターテインメントになりました。
それだけにとどまらず、東京2020オリンピック・パラリンピックのスポンサーであるNEC、富山県氷見市などの企業や自治体とタッグを組み、CMや広告の代わりに「独自のゆるスポーツをつくる」というビジネスにまで発展しています。
ゆるスポーツを始めた2015年当時、内閣府が行った世論調査によると、成人が週1回以上スポーツを実施した比率は40.4%。つまり、残り約60%の人がスポーツをする機会が年に数回あるかどうか、あるいはほとんどやっていませんでした。
そう考えると、1億人の半数以上、数千万人規模の「スポーツをしない人」マーケットを取りこぼしているという「穴」が浮かび上がったんです。ここにスポーツ弱者の視点を持ち込むことで、新たなチャンスが生まれるんじゃないだろうか──。
マイノリティを起点に、働く。その、とてつもないパワーに、僕は息を吹き返しました。