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生き方

病床の母、高齢の祖母、ダウン症の弟…苦境の受験生を合格に導いた「型破りな勉強法」

岸田奈美(作家)

2021年01月21日 公開 2024年12月16日 更新

作家・岸田奈美さんが大学受験を目指したとき、母親は大動脈解離の大手術と後遺症で入院中、高齢の祖母、ダウン症の弟、父親は中学生のときに逝去という、満身創痍のチームでした。

でも、なんとしてでも、車いすユーザーとなった母親が「生きていてよかった」と思える社会にするために、岸田さんは関西学院大学の福祉とビジネスを学べる「社会起業学科」合格を目指します。

どうやって勉強すれば、E判定がくつがえるか? ある整骨院の「よい大人ではない」先生との出会いが岸田さんの受験を大きく動かしていきます。

※本稿は、岸田奈美著『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(小学館)から一部抜粋・編集したものです。

 

見つけた夢、しかし合格判定は「E」

生まれてこの方、トラブルばかりに見舞われる。

しかし立ち行かなくなったとき、どこからともなく助けてくれる人が現れるという豪運っぷりだけは、大手をふって自慢させてほしい。

高校生のとき、わたしを助けてくれた先生の話をしよう。17歳のわたしは、はちゃめちゃに焦っていた。

家には病気の後遺症で歩けなくなって、苦しみながら入退院をくり返し、リハビリに打ち込む母がいた。「死にたい」と打ち明ける母に、わたしは「もう少しだけ時間をちょうだい。大丈夫だから」と口からでまかせをいって、食い止めた。策なんてなかった。

しかし、勝てば官軍。あとから大丈夫にすればいいのだ。わたしはありとあらゆる手段を求めて奔走し、たどりついた高校の進路相談室で、とあるパンフレットを手にしていた。兵庫県にある関西学院大学の入学案内だ。表紙にはこう書かれている。

「日本初! 福祉とビジネスを同時に学べる、社会起業学科を新設」

「渡りに船」とはこのことだ。わたしの父は経営者だった。脳裏に、『進め!電波少年』のごとく、ボフンッと父と母の顔が浮かぶ。

この大学に行けば、父が得意だったビジネスの力と、母を助ける福祉の力を、同時に得られるかもしれない。最強の二刀流じゃん。宮本武蔵じゃん。

「ここだ。ここに進学するしかない!」

そういってわたしが鼻息を荒くしたのは、高校2年生の秋が終わるころだった。すぐさまノコノコと街へくり出し、模試なるものを受けにいった。届いた結果に、思わず目をおおいたくなった。でかでかと印字された合格判定は「E」。

WやZに比べたらまだ前の方のアルファベットでよかったなとのんきに思ったのだが、Eは一番下のランクだった。合格確率は5%以下。一説によるとアイスのガリガリ君がもう1本当たる確率と同じである。

数え切れないほどのガリガリ君を食べてきたが、当たったことなど一度もない。ガリガリ君を当てにいくノリで、入試を受けにいかなければならない自分に、愕然とした。

E判定の項目には、ご丁寧に「志望校の変更を」と書かれていた。ぐうう。

ガリガリ君はあきらめて、ヤッターメンにすべきか。あれなら何回か当たったことがあるぞ。

でも、どうにもあきらめきれなかった。

ならば道はひとつしかない。学力を伸ばすだけだ。しかし道がわかったところで、進めるかどうかは別問題なのだ。わたしはそもそも高校の授業についていけてなかった。

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よい大人ではなかった、よい先生

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